2018年からの「うんこドリル」ブーム、2019年に議論となった東京オリンピック・トライアスロン競技会場である東京湾のうんこ臭事件……近年、うんこが世間を賑わせている。

【「今、うんこ触ってんですよ?」と楽しげに語る達人】

 ここに「ウンコロジー入門」なる書物がある。

 野ぐそ生活46年、“うんこを土に還す達人”を意味する「糞土師(ふんどし)」を名乗る伊沢正名さんが2019年12月に刊行したものだ。

伊沢正名(いざわまさな)/
<br />1950年茨城県生まれ。70年より自然保護運動をはじめ、75年からキノコ写真家に。74年から野ぐそを始め、90年に伊沢流インド式ノグソ法(場所選び、穴掘り、葉でふき、水仕上げ、埋めて、目印、年に1回)を確立。今回の取材は伊沢さんのノグソスポットである自宅付近に所有する林で行った
伊沢正名(いざわまさな)
1950年茨城県生まれ。70年より自然保護運動をはじめ、75年からキノコ写真家に。74年から野ぐそを始め、90年に伊沢流インド式ノグソ法(場所選び、穴掘り、葉でふき、水仕上げ、埋めて、目印、年に1回)を確立。今回の取材は伊沢さんのノグソスポットである自宅付近に所有する林で行った
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■うんこは生命循環の源である

 伊沢さんはキノコやコケの写真家として長年活動し、自然に親しんできた。そのなかで動物の糞や死骸は他の動物に食べられ、あるいは菌類に分解されて役立てられ、ミミズや菌類が排泄したものによって栄養ゆたかになった土を求めて植物が根を伸ばし、その植物を草食動物が食べ、草食動物を肉食動物が食べるという生命の循環に気づいた。

「糞尿は病気のもと」というイメージが根強い。しかしそれは自然が分解しきれないほど大量の排泄物を一度に土や河川、海に流す、あるいは分解する菌類がいないコンクリート等でできた都市で生じる問題だ。

 人口密度の高い都市部以外では、人類は疫病を蔓延させることなく適量を自然に還してきた時代・地域の方がマジョリティである。日本でも化学肥料が普及する以前はうんこは肥料として高値で取引され、有効活用されていた。

 ただただうんこを忌避する今の日本人のうんこ観は、せいぜい数十年の歴史しかない、きわめて新しいものだ。

 この本「ウンコロジー入門」はそうした新しい常識に染まりきった私たちに再考を促す。伊沢さん自身が林の土に埋めたうんこがネズミやイノシシ、アリやフン虫などに食べられ、腸内細菌やカビ、キノコなどの菌類に分解され、そこに植物の根が伸びてきたり、芽生えがあらわれるまでの調査記録も克明に綴られている。

「林でうんこをすれば分解して土に還ると頭ではわかっていたけれども、実際に足かけ3年にわたる野ぐそ跡掘り返し調査をやったのは、野ぐそを始めて30年以上経った2007年から。もう、世界観が変わりました」

 伊沢さんは「人間が生み出すもので他の生物の役に立つのは、うんこと死体だけ」と語る。動植物やキノコを食べて命を奪った人間が、自然に栄養を返し、生命の循環に参加する行為が野ぐそなのだ。

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うんこが出せない、拭けない、燃やせない