これはアフリカゾウの群れが川を渡り、ちょうどこちらへ向かってくるときの一枚だ。15頭ほどの群れが水からあがり、僕たちを避けるように左右に通り過ぎていく姿は迫力そのものだった。ゾウたちの耳が体に当たり風を感じるほどの音、水をかきあげる音、大きな鳴き声……群れになるとゾウの体臭や熱気もかたまりとなってこちらへ迫ってくる。ドライバーが思わず「おぉ……」と横で声をあげた。
この一枚を撮れたのは運がよかった。川の向こう側にゾウの群れがいるのを見て「川を渡る」と思い、当てずっぽうでこの場所に車を止め、息をひそめて待つこと15分……。真っ正面に彼らが現れたのだ。ズームレンズをワイドにし、画面いっぱいに彼らを収めた。僕の背後にあった樹木の影がいい具合に落ち、画面の左右でコントラストが出たのもよかった。
写真・文=岩合光昭
※『アサヒカメラ』2019年12月号より