「わたしたちで、何かできないかな?」

 福田と思いが一致し、人びとが声をあげやすい社会を目指す団体「Voice Up Japan」代表の山本和奈(25)にも声をかけた。福田は留学先のスウェーデンから、山本はチリから、日・欧・南米と地球をまたいで話し合った。

 能條は3人の意見から行動の方向性を「声を可視化するには署名がいい。森会長個人の問題ではなく、組織の問題だから、女性理事の割合の改善と再発防止を組織委員会に求めよう」と集約。福田と山本が署名の文案を書き上げた。そこから賛同人が加わり、翌日夜にはSNSで署名運動がスタート。10日間で15万7千筆を集めた。

幼い頃からニュースに関心
作文のコンテスト荒らしに

 署名提出後の記者会見で、能條はこう語った。

「こんなことで怒らなければならないのは、私たちの世代で終わりにしたい」

 森は辞任し、後任に橋本聖子が就任した。福田は言う。

「桃子は仲間への声かけが上手い。ネット時代のアクティビストは、出方によっては批判にさらされる。実際、一部に批判はあったけれど、彼女は本質的なところに焦点を当て、いい温度感で周りを巻き込みました。あの出来事で私たちはガッチリ横でつながって、もう、ほんとに戦友ですね」

 社会のニュースには小さいころから関心があった。ゼネコンに勤める会社員の父と専業主婦の母のもと、神奈川県平塚市で育つ。多忙な父と平日に夕食を食べた記憶は、ほぼない。一時期は父子の交換日記でコミュニケーションを取っていた。読書家の父の影響で本好きになり、小5から池上彰のニュース解説本はほとんど制覇した。

 自分の考えを文章や言葉にするのが好きになり、「入賞賞金が小遣いがわりになるぐらい」の作文コンテスト荒らしに。「妄想好き」が高じて、親戚の子に「きかんしゃトーマス」のパロディーの物語を創って絵本にしてあげた。親戚の誕生日の度に、2歳下の妹と誕生日会を計画し、近所に住む祖母(81)の家に集まっては、折り紙の花でいっぱい飾って、司会進行も買って出た。

 祖母の家には毎日のように遊びに行った。今ではLINEも使いこなす「ポジティブおばあちゃん」は、自転車の置き方が上手というだけで褒めてくれ、そばにいると自己肯定感が上がった。親戚の多くが父方のルーツである平塚の近所に暮らす。運動会は親戚一同が応援に駆けつけた。

「今思えば、自分の存在自体が大事にされ、地域で人との豊かな関係の中で育まれた」(能條)

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