インターンシップで早くから企業経験を積んだのは、「前倒しで人生設計するため」。仕事の面白さにのめり込んだが、やがて「今後経済成長が期待できない中で、男性に追いつく発想で働く社会が、本当にいい社会なのか」と疑問を抱いた。また、近しい同世代の子が自殺したことに心を痛めた。その子だけに限らず、若い人の生きにくさをつくる「わたしたちを取り巻く社会の壁」に思いを馳(は)せた。少子化、地域のつながりの減少、エリート偏重社会……と壁は至る所にあると感じた。

 さらに今はもうない、若者と政治をつなぐ団体に参加しても、男性ばかりで馴染(なじ)めなかった。

「結局自分は何もできてないなと。文句ばっかり言ってる自分が嫌になった。この時期が一番苦しかったんですよ。人生に悩み過ぎて、何回泣いたかわからない」

 ある勉強会で、デンマークの幸福度ランキングが高く、若者の4人に1人が行くと言われる「フォルケホイスコーレ」という、高校でも大学でもない全寮制の「民主主義の学校」があると知った。

 現地の若者たちと暮らしながら、自分と社会の接点を見つめ直したい──。

 19年4月、大学3年生の時に休学してデンマークに留学。その年は12年に一度のEU議会と国政のダブル選挙があり、デンマークではEU議会選で20代の投票率が50%を超えた。若者の多くが投票した緑の党が大きな勢力へと躍進。国政選挙での若者の投票率は80%ほどに上った。選挙前、学生同士が気軽な会話で政治のことを話題にしていた。留学した学校で世論調査を行ったり、学内の新聞紙上で選挙のジョークをネタとして扱ったり。

 若者たちが、楽しみながら社会を変えていく光景を目のあたりにした能條は、強く思った。

「この熱気を、日本の若い世代にも伝えたい!」

 ダブル選挙の後、能條はデンマークで知り合った瀧澤千花、高槻祐圭、黒住奈生の4人で現地の島を旅していた。日本の参院選の2週間前だった。

「そういえば、夏の参院選があるね」

社会の「余白」を残したい
75年先の日本を思い描く

 夜、宿泊先で雑談するうちに、能條はNYNJの活動を思いつく。宿で他の3人が就寝中に、「深夜の高いテンション」で企画書を書き上げた。瀧澤いわく「『私はこうやりたい!』を書き殴った演説でしたよ」という企画書には、若者目線の政党比較をつくる。発信はインスタグラムとグラフィックを使う。U30世代の投票率を上げる呼びかけを……などと書かれていた。「若い世代なくして日本はない」という意味を込めて団体名をつけた。

(文・古川雅子)

※記事の続きはAERA 2022年7月4日号でご覧いただけます

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