
■粋で履きやすい 祇園「ゝや」の下駄
祇園・花見小路に古い佇まいを残す「ゝや」(ちょぼや)は、1954(昭和29)年より下駄や草履、舞妓さんの「おこぼ」を扱う草履店です。小説家・水上勉が通い、私小説短編『下駄と仁丹』のお話の舞台にもなっています。祇園の豪快で粋な職人である「ゝや」三代目の櫻井功一さんが手掛ける下駄は、足が痛くなりにくく履きやすいことで広く知られています。女性用の下駄は、夏に素足で履いても足型が付かないよう黒塗りが施され、鼻緒は肌触りの良い本天(ビロード)を使われています。この下駄を履いて歩くと、舞妓さんが履く「おこぼ」のようにポコポコとした音色が響くので「おこぼ下駄」とも呼ばれているそうです。男性用の桐下駄は、胡麻竹(ごまだけ)が薄く貼られ、素足で履いた時の足触りが良く、粋で鮮やかな鼻緒の色使いも「ゝや」の特徴の一つです。

■七夕の日に届けたい 大切に受け継ぎ守る織姫の味
大徳寺門前に、江戸時代より240年の伝統を大切に守り続けておられる老舗和菓子店「松屋藤兵衞」があります。大徳寺北側、西陣の氏神である今宮神社の境内摂社には「織姫社」があり、織姫に機織りを教えたという織物の神様が祀られています。織物の地、西陣に生を受けた桂昌院(徳川五代将軍綱吉の生母)は、当時荒廃していた今宮社に寄進し、神社を復興させたと伝えられています。西陣織と七夕伝説、この二つが織り成す物語を受け、桂昌院を偲び作られた「珠玉織姫」(たまおりひめ)は、七夕の季節に大切な人へ届けたくなる京の和菓子です。糸巻の美しい絵が描かれた掛け紙をほどくと、糸枠に見立てた木箱と糸巻を模した小さな陶皿が付いており、細やかな遊び心にため息が出ます。木蓋を開けると、鮮やかな西陣織の糸玉を表した五色のお干菓子の玉が入っています。赤は梅、黄は生姜、白は胡麻、青は柚子、茶はニッキと色々な味が楽しめ、ほろりと柔らかで優しい風味が口の中に広がります。