日本最後の清流と呼ばれる四万十川。その流れに寄り添うように、高知県と愛媛県を結ぶのが予土線だ。
全区間を走破する列車が1日6往復しかないローカル線だが、「予土線3兄弟」と呼ばれる趣向を凝らした観光列車が走っている。「しまんトロッコ」「鉄道ホビートレイン」「海洋堂ホビートレイン」の3種類の列車だ。
なかでも初代新幹線0系を模した鉄道ホビートレインは人気者。長閑な風景にミスマッチと思いきや、愛嬌あふれる車両が、四万十川の風景に不思議と溶け込んでいる。
さて、鉄道撮影の目線になると、おすすめエリアの筆頭は土佐大正駅─土佐昭和駅間である。この区間は、右に左に蛇行する四万十川を、高架橋で真っすぐに突き抜ける。スピードにのって高速で列車は走るが、撮影ポイントが点在しているエリアだ。
最後の清流といわれるだけあって、透き通るような川面が水鏡となり、二重の景色となることも多い。
四万十川といえば沈下橋を思い浮かべる人も多いだろう。沈下橋とは、川が増水したときに水面下に沈んでしまう橋のことで、欄干がない橋が多いのが特徴だ。
沈下橋は、四万十川を表現するには格好の被写体であり、予土線と一緒に撮影もできる。第1三島沈下橋や茅吹手沈下橋はうまく線路とからみ、撮影しやすいだろう。
そして、春限定のとっておきの風景が十川地区の「こいのぼりの川渡し」だ。45年も続けられている恒例行事で、4月中旬から5月中旬まで約500匹のこいのぼりが四万十川を泳ぐ。今では全国各地で行われているこいのぼりの渡しの発祥の地という。
こいのぼり公園から対岸の山上に向かって泳いでいるが、その山上まで車で行くことができて展望台にもなっている。そこからアングルを決めれば、予土線を入れて撮影することが可能だ。春の予土線を代表する鉄道風景である。
撮ってよし、乗ってよしの予土線への旅をぜひこの春に。

写真と文/長根広和(ながね・ひろかず)
1974年、神奈川県生まれ。大学卒業後、鉄道写真家・真島満秀氏に師事。現在マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ代表。「列車の音が聞こえてくるような作品」をモットーに、日本全国の鉄道を追いかけている。「青春18きっぷ」などのポスター撮影、鉄道誌、カメラ誌などで活躍。日本写真家協会会員。日本鉄道写真作家協会副会長。
※アサヒカメラ2019年4月号より抜粋