息子の一周忌に桜の木を植えた。「桜を見ると複雑で。でも今はそれも大切な気持ちだと思える」(撮影/鈴木愛子)
息子の一周忌に桜の木を植えた。「桜を見ると複雑で。でも今はそれも大切な気持ちだと思える」(撮影/鈴木愛子)
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グリーフカフェ。この日はわが子が自死した母親も参加した。日本全体の自殺者は減少傾向なのに19歳以下は年間500人以上と減少しない。「いじめなどで悩む子をケアする構造を考えたい」と森(撮影/鈴木愛子)
グリーフカフェ。この日はわが子が自死した母親も参加した。日本全体の自殺者は減少傾向なのに19歳以下は年間500人以上と減少しない。「いじめなどで悩む子をケアする構造を考えたい」と森(撮影/鈴木愛子)
「やさしくて大好きな母だった。離婚後は憎んだこともあったけど、7年ぶりの再会なのにすんなり会話できた。やっぱり親子なんだなあと思った」と三男。背後で写真の中の長男が母子を見守っている(撮影/鈴木愛子)
「やさしくて大好きな母だった。離婚後は憎んだこともあったけど、7年ぶりの再会なのにすんなり会話できた。やっぱり親子なんだなあと思った」と三男。背後で写真の中の長男が母子を見守っている(撮影/鈴木愛子)

森(右)の活動を応援する入江(左)。「これから高齢化社会で身近な人を失う人はもっと増える。安心安全な場所で悲しみを吐き出す機会が必要だと思う」(撮影/鈴木愛子)
森(右)の活動を応援する入江(左)。「これから高齢化社会で身近な人を失う人はもっと増える。安心安全な場所で悲しみを吐き出す機会が必要だと思う」(撮影/鈴木愛子)

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 中学2年生の長男が自ら命を絶った。いじめが原因だった。事実解明を求め、母は遺族として学校側と闘った。成果はあった。けれども、長男を失った悲しみは置き去りにされた。夫も次男、三男も置いて、逃げるように一人、家を出た。今、NPOを立ち上げ、同じ悲しみを抱える人に寄り添いたいと思えるまでに。もつれた親子の糸もほぐれてきた。(文/島沢優子)

*  *  *

 森美加(もり・みか 48)は東京都港区で活動するNPO「暮らしのグリーフサポートみなと」で、離婚、別離、大切な人を亡くすなど、何らかのグリーフ(悲しみ)を抱える人たちに寄り添う。

 こころの苦しみの解消が目的ではない。否定も肯定もせず、ただただ吐き出す言葉を聴き、そばにいること。人々はそんな時間のなかに癒やしを見いだし、自分の変化や発見を経験する。

 気持ちを語り合う「グリーフカフェ」は、すぐに定員が埋まる。母親を病で亡くした50代の男性は「母の洋服を片付けられない。さわるのがつらい」とつぶやく。中学生の息子が自死した40代の女性は「ここに来るようになって、自分の孤独を否定しなくてもいいと思うようになった」という。

 森は、ただうなずきながら、静かに話を聴く。人の悲しみに対峙しながら、自分の過去をひもとく彼女が、気にかけていた判決が最近あった。

 2月19日。2011年10月に大津市の中学2年生だった男子生徒が自殺したのはいじめが原因だとして両親が損害賠償を求めた訴訟の判決で、大津地裁は元同級生2人に賠償を命じた。

 学校は当初、いじめの事実を隠蔽しようとしたが、警察が捜査に乗り出し、市の第三者調査委員会が自殺の要因をいじめと認定した。

 真実をつまびらかにするための「三者委」が全国で初めて置かれたのが、大津の5年前に起きた「福岡中2いじめ自殺事件」。森はこの事件の被害者遺族である。

「この事件は私の中で特別なもの。ただ判決が下りたとしても、遺族は第二の人生を生きていかなくてはいけない。周囲はご両親を支えてほしい」

●事実解明を求めて裁判に 前例を変える挑戦だった

 2006年10月11日。

 森の長男である啓祐は、福岡県内の自宅倉庫で祖父によって発見された。駆けつけた森が祖父とともに玄関まで運ぶと、到着した救急隊員は13歳の薄い胸を押し続けた。紫色の唇、真っ白な顔。小学4年だった三男がすがるように叫んだ。

「お兄ちゃんを助けてください! お願いっ、お願いします」

 だが、願いは届かなかった。冷たくなった啓祐が自宅に戻るやいなや、パソコンなど彼の身の回りのものは全部警察によって持ち出された。「いじめられて、もういきていけない」などと書かれた遺書も見つかった。

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闘いの日々が始まった…