しかも男性が傷ついている様子や悲しむさまを間近で見るのは初めてのことでしたから、非常に興味深く、目が離せませんでした。やがて、私まで元彼女にフラれたような気持ちになって泣いたりして、なんなら元彼女のことを好きになってしまいそうでした。
しかもそんな彼が、私の肉体にはしっかり欲情したりするのを見ると、なんて身勝手なのかしらと思いながらも、その人間の浅ましさというか心なさみたいなものの味わいを興味深く思ってしまう自分もおり、傍目には失恋の寂しさと性欲処理のために男に利用されただけなのですが、本人としては「実に珍しい体験をしたものだ」というそれなりの手応えを感じていたのです。彼には、結局「前の彼女が忘れられない」とフラれました。
このとき自覚した「人の得体の知れなさに近づきたい」という思いは、私が生来持っているものではないかと思います。その後もいくつか恋をしたものの、ひとさまからみたら愚かな恋でも、本人としては人間に対する考察を深める機会になったので、悪くはなかったんじゃないかと思います。相手が私との恋愛をどう思ったかはわかりませんが、中には現在も良好な友人関係を保っている人もいるので、さほど非人間的な女と思われたわけでもないのかもしれません。
■いまに続く、遅刻常習犯
話を学校に戻しましょう。
時間管理が苦手であるということは遅刻が多いということです。私が暮らしていた東京郊外の新興住宅地から新宿にある学校までは片道2時間ほどかかりました。女子高校生にとって髪の毛というのは重大な問題で、毎朝5時に起きては長い時間をかけて髪をドライヤーでセットしておりました。髪を引っ張ったり巻いたりしてようやく納得が行く形になった時にはバスの時間が迫っており、自宅を飛び出して全力疾走でバス停まで行き、駅に着いたら通勤快速という名のノロノロ電車に乗り込んで、肋骨が折れそうな混雑の中、痴漢(当時はまだ犯罪と認識されていませんでした)との戦いを続けて終点の新宿まで50分。そこから山手線に乗り込んで高田馬場駅へ。しかし学校は駅から徒歩で20分の場所にあり、とても間に合いません。