第2弾の撮影中には、大杉が亡くなるという不幸な出来事もあった。

「信じられなかったし、本当に衝撃でした。10年先を行く漣さんを見ていてああいうふうになりたいと思ってましたから。漣さんは主役の道を来た人ではなかったけれど、仕事の振り幅が広く、いろんな役をやってらした。そういう意味で、僕たちの理想というか、トップランナーでした。でも、最後がほかのドラマや映画ではなく、『バイプレイヤーズ』だったということに何かがあると僕は勝手に思った。漣さんの遺志みたいなものを継ぐのは僕たちだと。漣さんは『そんなこと思ってねえよ』とおっしゃるかもしれないけれど」

「バイプレイヤーズ」出演以降、光石の仕事の密度はさらに増していく。「出演映画が公開されれば、それを見た関係者が『やっぱり光石研はいい』となって依頼してくる。そして、またそれを見た人からオーダーがくるという相乗効果が続いている」とマネジャーの野口は言う。旧知の監督からの依頼を断ることも光石が嫌うため、仕事は増える一方なのだ。スタッフを大事にするから現場での評判もすこぶるいい。「演出部、撮影部、録音部、衣装部、メイク部とある中の僕は俳優部のひとりにすぎない」という信念で現場に立つ役者が求められないはずもない。

 光石は、いま、自宅で他のドラマや映画を見ることがほとんどなくなった。劇場や映画館に足を運ぶこともほぼない。そんな時間すらとれないのだ。

「仕事を入れすぎなのかもしれないけど、働かないと不安で……。どこかで『お前なんかが勉強とか言って、芝居なんか偉そうに見てんじゃねえよ。働け、働け』と言われているような気がしてね」

 つい最近、光石が若手俳優たちと話していて、「他の俳優に嫉妬する」と漏らすと、「その年齢で」と驚かれたという。「いや、全然嫉妬するし、悔しいし、羨ましいんだ」と57歳のベテランは隠さなかった。

「こんな年齢なのにあの人はまだあんなに走れるんだという肉体への憧れもあるし、このセリフ量を覚えられるんだという羨ましさもあるし。それは、50代の後半になって、いろんな鎧がなくなってきて、他人を純粋にすごいと認められるようになったということでもあるのかもしれない。僕の中には、まだまだ達していない、満たされていないという思いが間違いなくあるんですね。それを乗り越えて、60代になって見えてくる景色がいまは楽しみで仕方ないんですよ」

(文中敬称略)

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