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何げなく見たドラマに、映画に、必ずといっていいほど光石研が登場する。高校生でデビューし、俳優生活は40年になる。
この節目に、「デザイナー渋井直人の休日」で連続テレビドラマでの初主演を務めた。どの役もはまる名バイプレーヤー。
今でこそ引く手あまただが、生活ができず、事務所に借金をしたことも。もがき続けた役者人生。でもまだ満たされていない。(文/一志治夫)
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深夜に帰宅し、早朝に自宅を出る生活が2カ月間続いた。睡眠時間は、連日4時間ほど。17歳でデビューして40年、初の連続テレビドラマ主演となる「デザイナー渋井直人の休日」(テレビ東京系)の撮影に追われていたのだ。
クランクアップの翌日、愛犬とともに都内の公園に現れた光石研(みついし・けん 57)は、連続ドラマの撮影を無事に乗り切れたことに心底ほっとしていた。もっとも、束の間のオフのあとには、早くも次の撮影が控えていて、「明日からまた新しいセリフを覚えなきゃいけないと思うと少し気が重い」とももらす。しかし、本気で嫌がっている様子はない。
「『寝られねえじゃないかよ』って文句を言いながら、どこか心地いいというところもあって……。ずっとそうなりたかったですからね。仕事がない時代の不安と恐怖がいまだに消えずで、忙しいことはまったく苦ではないんです」
初主演となった今回の連続ドラマでは、うってつけの役が用意されていた。仕事に対して自負を持ちつつも決して威張らず、おしゃれでセンスのいい柔和な52歳のデザイナー役だ。本人と主人公の境が見えなくなるぐらいのはまり役である。
「渋井直人を通じて自分のことを笑ってもらえるのが自虐的な喜び。どこまでが渋井でどこまでが僕なのか、曖昧にして煙に巻くのが痛快でした」
たとえば、第5話の「渋井直人の渋谷」は、渋井ファンである若い女性が上京してきてデートをするというストーリー。初対面の女性をおしゃれな「奥渋」のレストランでもてなそうとする渋井だが、好みに沿わなかったり満席だったりで1時間以上も街をさまよう。最終的にホテル街に迷い込み、とんでもない誤解を受けてオロオロする優柔不断で少し情けないおじさんを光石は好演する。
●オーディションに合格 高2で映画の初主演に
光石の巧さは、自身の存在感を押し出すことなく、個性を消して役に憑依できるところだ。お茶目なおじさんはもちろん適役だが、逆に凄みのきいた極悪人もまたリアルに演じきる。名脇役として重宝されてきた理由はそこにある。