ペナン島には多くの屋台が並ぶ(撮影/阿部稔哉)
ペナン島には多くの屋台が並ぶ(撮影/阿部稔哉)

■赤道越えるため 高くても車手配

 車を手配してもらうことになった。伝えられた金額は1台300万ルピア、約2万1900円。

「高いでしょ。LCCのほうが安くて速いですよ」

 しかし旅の目的は赤道を通過すること。そこを飛行機で越えてしまうわけにもいかない。なんとか値切って270万ルピアまでさがったが、やはり高かった。

 車はスマトラ島の中央に続く山岳地帯を一気に南下していく。トバ湖周辺はバタック族という民族が多く、キリスト教も浸透している。南下するにつれ、イスラム色が強くなり、民族も変わっていく。

 山間の水田の緑がまぶしい。日差しの強さが、赤道に近づいていることを教えてくれる。道は悪い。途中、土砂崩れにも遭遇したが、なんとか通過することができた。

トバ湖までの乗り合いタクシー。途中で1回パンクした(撮影/阿部稔哉)
トバ湖までの乗り合いタクシー。途中で1回パンクした(撮影/阿部稔哉)

 夜の8時半、赤道に到着した。以前は、「EQUATOR」(赤道)という看板があるだけで、道には白線が描かれていた。しかしいまは立派な観光地になり、白線に代わって歩道橋がつくられていた。

 ブキティンギに着いたのは夜の10時半だった。赤道通過のための15時間の南下行だった。

ブキティンギではいまでも馬車が走る。日本軍の防空壕が観光地になっている(撮影/阿部稔哉)
ブキティンギではいまでも馬車が走る。日本軍の防空壕が観光地になっている(撮影/阿部稔哉)

 そこでまた悩むことになる。30年前はバスでジャカルタに向かった。それしか選択肢がなかった。しかし街の人に聞くと、みんな首を横に振った。

「バス? 2泊3日乗りっぱなしだよ。運賃は50万ルピアもする。誰も乗らないよ。皆、パダンまで出てLCC」

 50万ルピアは約3650円。ネットでLCCを調べてみた。ライオン・エアが最も安く6484円だった。心はずんずんLCCに傾いていく。僕は64歳である。30年前このルートに同行した阿部稔哉カメラマンが今回もつきあってくれた。彼も54歳になった。超長距離バスの前で腰が引ける。

「2泊3日ってことは、その間の食費もかかるよな。それを2千円と見積もると、バスとLCCの差は1千円弱」

 読者は修行僧のような旅を望んでいるのだろう。『12万円の旅』シリーズでは飲食費などの詳しい明細を載せていたので、当時は読者からこんな声が寄せられた。

「3日目にコーヒー飲んでいるでしょ。あれは甘いと思う」

 ……う~ん。バスかLCCか。甘いと言われるだろうが、LCCに負けた。

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