自分はいままで、中途半端なプロ意識をもっていたのだと思う。ずっと、自分にしかできない仕事をするのがプロだと思っていたけれど、本当のプロは、いつ何が起きてもお客様にだけは迷惑をかけない体制を日ごろからつくっているんだね。今回のことで、ようやく気づくことができたよ」
この言葉を聞いて、私たちもとても感動しました。この男性の言葉からもわかるように、業務の「属人化」を放置することは、メンバーにとっても、チームにとっても、大きなリスクとなります。そして、「属人化」を解消しておけば、イザというときにも対応できるチームになることができるのです。
●「属人化」を解消して、「強いチーム」をつくる
もうひとつ、熊本県にある健康食品会社のエピソードもご紹介しましょう。この会社では、社長とマネジャーたちが一丸となって「働き方改革」を推進。当初、社員の多くは消極的だったのですが、マネジャーたちが粘り強くアプローチを続け、少しずつ全社的に「働き方」が変わっていきました。
なかでも、「属人化」を解消することによって、不在のメンバーがいても、ちゃんと仕事が回る体制を整えることに注力。「長期の休みは取りづらい」とあきらめていたメンバーたちのリフレッシュ休暇の取得率も100%になったのです。
そんなとき、2016年4月に熊本地震が発生。震源地にほど近い社屋は破損等の被害を受けながら、一階を緊急避難所として地域に開放しました。一方、全国にいるお客様の多くは、同社が熊本地震の被災企業であることを知りませんから、どんどん注文は入ってきます。避難所生活を余儀なくされているメンバーもいるなか、避難所としての機能を発揮しながら、通常どおりの業務を進めなければならなかったのです。
しかし、ここで、日頃から「属人化」の解消を進めてきた成果が現れました。すべてのメンバーがあらゆる業務をこなすことができますから、なんとかお客様のオーダーにも対応することができたのです。しかも、避難所生活を送るメンバーや、両親の世話をしなければならなくなったメンバーには、気兼ねなく休暇を取ってもらうこともできました。「もし働き方が以前のまま属人化した状態だったら、業務が滞りお客様にも多大な迷惑をかけていました」と語る社長の姿が目に焼きついています。
このように、「属人化」を解消しておくことが、どんな状況に陥っても稼働する「強いチーム」をつくることに直結するのです。こうしたメリットについても、「カエル会議」でメンバーに伝えたうえで、「属人化を解消できるように、みんなで工夫していきましょう」と呼びかけるといいでしょう。
(小室 淑恵:株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長)