
「これを研究すると決めるとそればかり食べるんです。他のものを食べたい気持ちを抑え、毎日寿司ばかりということもありました」(しおりさん)
4年前に実さんが亡くなり、後を継ぐことになってからも自ずとその頃の経験が生きているという。「支那そばや」のラーメンはレシピだけで作れるものではなく、横で見て学んできたものにしか分からない技術がある。
「それを伝えていくのが使命」
としおりさんは話す。
「支那そばや」の商品というだけで、食べる側の期待値も自ずと高くなる。ただ美味しいラーメンを作るのではなく、なぜこのスープにこの麺を合わせたのか、なぜこの具材を合わせたのかをすべて説明できなければいけない。すべての商品に“支那そばやらしさ”を出さなければという思いがしおりさんを突き動かしている。
今年の7月、新横浜ラーメン博物館で食べた「冷やし中華」はまさに“支那そばやらしさ”を感じた。9種類の小麦をブレンドした自家製麺に低温調理した山水地鶏の細切り、名古屋コーチンの錦糸卵などの彩り溢れる具材。食べたとき、不思議と“支那そばや”だとしっかりわかる一杯だった。派手なことをしているわけではないのに、“らしさ”がしっかり出ることに凄みを感じたことを筆者は覚えている。

こだわり尽くされた「佐野実のラーメン」を守り続けた奥様が愛するラーメンはいったいどのラーメンなのか。
■ミシュラン獲得店の店主が作る「どこまでもシンプルを追求した中華そば」
ミシュランガイドの指標の一つに「ビブグルマン」がある。東京の場合、5000円以下で食事ができるコストパフォーマンスの高い店に与えられる評価の一つだ。ミシュランガイド東京2018でビブグルマンを獲得したのはわずか24店舗だけ。ラーメンの鬼の妻、しおりさんが選んだのはこのビブグルマンに選ばれた名店の“セカンドブランド”だった。
JR横浜駅から10分ほど歩いたところに「横浜中華そば 維新商店」がある。