店舗の2階で製麺、スープ作りをし、ラーメン屋さんらしいラーメンを目指した。平日でも平均200人のお客さんが集まり、思っていた以上に反響があった。


二階の製麺室(筆者撮影)
二階の製麺室(筆者撮影)

 中華そばはなんと690円。いつでも手に入る食材を使い、そこに長崎さんの技術をプラスして作り上げた一杯だ。スープは鶏の清湯で、タレにチャーシューの煮汁を使用。生姜がよく効いていてほっとする味わいになっている。スープに自家製の手もみ極太麺が絡んでとても美味しい。

中華そば(筆者撮影)
中華そば(筆者撮影)

 しおりさんが「維新商店」を選んだ理由を聞いてみた。

「佐野は他では作れない特別なラーメンを目指していましたが、自分で食べる時は原点に戻れるようないつ食べても美味しいラーメンが好きでした。『維新商店』のラーメンは『The ラーメン』。奇をてらわず、シンプルでかつ古すぎず、流行りを追うこともなく、いつ食べても美味しい一杯です。佐野と食べてきたラーメンを思い出させてくれます」

 在りし日の実さんと食べた懐かしい味を届けてくれる一杯が「維新商店」の中華そばだったというわけだ。長崎さんの目指した原点のラーメンが、しおりさんの舌にもしっかりはまったと言える。

 もちろん、長崎さんにとっても“佐野実”の存在感は大きい。

「『たかがラーメン』と言われていた時代から、ここまでの地位にのし上げた立役者の一人は間違いなく佐野さんです。我々のような佐野さんを知っている世代が後世へその情熱や姿勢を伝え続けなければいけないと感じています」

 と長崎さん。そして、こう続ける。

「うちのようなシンプルなラーメンを選んでいただけるとは意外でした。本当にありがたいです。横浜という同じ地で、ネットのない時代に電話一本で全国に食材を探しに行った佐野さんの思いがこもったラーメンは旨いに決まっています。食材に対する姿勢を本当に学ばせていただきました。ラーメンはここまでできるんだぞ! と示してくれたのが佐野さんです」

ラーメンを作る長崎さん(筆者撮影)
ラーメンを作る長崎さん(筆者撮影)

 目黒に移転した「麺や 維新」はどこまでも研ぎ澄まされた一杯を提供し、ミシュランガイド東京のビブグルマンを獲得するまでのお店に成長した。「支那そばや」同様、シンプルなラーメンを愛してこそのトップであることがわかる。こういうお店こそ流行に左右されず残っていくのだと思う。(ラーメンライター・井手隊長)

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井手隊長

井手隊長

井手隊長(いでたいちょう)/全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。Yahoo!ニュース、東洋経済オンライン、AERA dot.など年間100本以上の記事を執筆。その他、テレビ番組出演・監修、イベントMCなどで活躍中。ミュージシャンとしてはサザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」などで活動中。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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