「奇跡のV字回復を果たした」としてメディアにも取り上げられている、日本有数のリゾート地・熱海。観光客が増えれば、それを吸収するホテルや旅館などへの投資も活発になる。今回、そんな熱海の宿泊施設における不動産投資計画を中心に現地調査した。果たしてどんなプレイヤーが、どんな争奪戦を繰り広げているのだろうか。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 大根田康介)
●ホテルラッシュはバブル期以来か
「羽田国際空港から電車(新幹線)で1時間くらい、熱海、箱根、小田原、湘南、条件が良ければ伊東まで。和風建築の日本らしい建物で、海の眺望がきれいな物件がほしい」
日本有数のリゾートとして知られる静岡県熱海市には今、こんな希望を持つ中国系投資家が続々参入している。中国系企業の保養所として使われるケースもあるが、その多くは宿泊施設への不動産投資だ。しかも、彼らはひとたび物件を気に入れば、たとえ商談中であっても相場よりかなり高めで横から割って入り即買いするという。
今年3月末、中国系投資会社による高級ホテル「熱海パールスターホテル」の進出が判明し、地元関係者の度肝を抜いた。
このホテルの前身は、10年もの間空きビルだった巨大な複合商業施設「aune ATAMI」(その前はつるやホテル)だ。尾崎紅葉の新聞小説「金色夜叉」の舞台で熱海の観光名所「お宮の松」の正面にある建物を、香港に拠点を置く企業グローリー・チャンピオン・エンタープライズ・リミテッドがホテルとしてリニューアルする。運営は、国内各地で温浴施設などを手がけるネスパ(東京都練馬区)が担う。
熱海は、高度経済成長期からバブル期にかけて大いに栄え、ホテルや旅館などの宿泊施設、企業の保養所、リゾートマンションがひしめいていた。しかし、バブル崩壊とともに観光客が激減し、宿泊施設利用者数が1991年度の440万人から2002年度には300万人を割り込んだ。さらに、リーマンショックや東日本大震災などで、2011年度には246万人まで落ち込んだ。そんな中、宿泊施設が次々廃業し、保養所は売りに出され、マンションや商業施設の開発計画が頓挫したことで、街のあちこちに建設途上の建物や更地が放置されていった。