担当者は、それまでの経緯をかいつまんで説明し、私に応援を求めた。
私はトラブル対応を最優先するため、担当者を同伴して男性宅を訪問した。男性は再び前回と同様の苦情を繰り返した。私はひととおり話を聞いたあと頭を下げた。
「今回の件につきましては、私どもの不手際でご迷惑をおかけいたしましたこと、誠に申し訳ございません。重ねてお詫び申し上げます」
しかし、男性は憮然とした表情のまま、返事もしない。クレームの発生からかなりの時間が経過し、振り上げた拳の下ろし方がわからなくなっていたのかもしれない。そして、玄関先でタバコをふかしながら、こう言い放った。
「そば屋の出前じゃあるまいし、もう少しまともなことを言ったらどうだ! ネットに流すぞ!」
同行した担当者は青ざめた。そこで私がこう切り返した。
「ネットですか。困りましたね。でも、お客様の行動に対して、私がとやかく言える立場ではありませんから」
男性は一瞬、「アレ?」という表情を見せた。その後、男性の興奮は徐々に鎮まっていった。
(了)
このように、K言葉で「のれんに腕押し」「ぬかに釘」の状態にもっていけば、クレーマーは「手詰まり感」を覚えます。
「消費者団体に通報するぞ!」「保健所にかけ込むぞ!」「消費者庁に告発するぞ!」などと言われた場合も、「困りましたね、でも……」とK言葉で応じます。そのうえで、「当局からの指導があれば、その指示に従うことになります」と明言すればいいのです。
「困りましたね」がK言葉の基本ですが、「苦しいです」「怖いです」も同様に使うことができます
たとえば、「どうするんだ?」と、じわじわ迫られたら「そのように責められると、苦しいです。どうしていいかわかりません」などと応じます。
「ふざけんな!」と大声で怒鳴られたら、「大きな声で怒鳴ることはやめてください。私、怖くてこれ以上、対応できません」と応じればいいのです。
おうむ返しで「やりすぎた感」を持たせる
「相手の土俵に上がらない」という意味では、相手の意見に同意も反論もせず、「おうむ返し」するのも効果的です。相手の訴えが嘘ではないかと疑問を感じたり、恐怖を感じたりしたときに、一度試してみてください。
たとえば、「痛くて痛くて、夜も眠れん」とおおげさに体調不良を訴えるクレーマーに対しては、「痛くて痛くて、夜も眠れないんですね」と応えるのです。絶対に「本当ですか?」と言ってはいけません。
また、「死ね」などと恫喝されたら、「死ね、ですか……」とおうむ返しをして、「怖いです」とK言葉につなぐといいでしょう。
さらに恫喝が続くようならば、「地元の警察(○○署)に相談します」「弁護士と協議します」と伝えます。すると、次の事例のように、クレーマーはたいてい、それ以上追求してこなくなります。