---食品メーカーの事例---

 食品メーカーの営業担当者が、クレーマーの自宅を訪問したときのこと。

「これ、異物混入事件だろ。なめとんのか!」

 中年男性は開口一番、声を張り上げた。身なりはごく普通で、車庫にある車もごく普通の車種である。いわゆる「ブラッククレーマー」ではないようだった。

 この1週間前、男性は、食品メーカーに「ヨーグルトにゴミが入っていた」と電話をかけてきていた。応対した窓口のオペレーターは、いつもの手順でお詫びと事実確認をした。とくに失言があったわけではないが、途中から男性はしだいに興奮し始め、最後は一方的に電話を切ってしまった。

 当時、ほかの食品メーカーでも異物混入が発覚し、マスコミでも大々的に取り上げられていた。男性は少なからず、その影響を受けているようだった。男性は、担当者を玄関口に立たせたまま、文句を言い続けた。

「オレが電話をしたのは、いつのことだ? 今日か? 昨日か? 違うだろ! もう1週間も経っているんだぞ! どうして、すぐに来なかったんだ!」

 担当者が釈明する。

「お客様が電話をお切りになったあと、まずはお電話をお待ちしたほうがいいと思いまして」

「じゃあ、いつ来るつもりだったんだ? 異物混入だぞ。もし、体調が悪くなったらどうするんだ!」

「申し訳ありません。まずはアポイントを取ってから、おうかがいしようと思いまして。それで昨日『今日の午後4時に来るように』とのご指示をいただきましたので、こうして参上いたしました」

 担当者は口ごもりながらも、事情を説明しようとするが、男性の怒りはますます激しくなった。

「お客の自宅に来るんだから、その直前に電話をしろよ。待ち伏せみたいな真似をするな。明日、出直してこい!」と怒鳴った。

 とうとう担当者は黙り込んでしまった。男性はさらに追い打ちをかけた。

「ネットに流したほうが、オタクみたいな会社はまともに対応するんだろうな。会社の実名入りで書いてやろうか?」

---(事例中断)---

 男性は、必殺フレーズとして「ネットに流す」を繰り出したのです。

 担当者にしてみれば、胃が痛くなるほどのストレスを感じるはずですが、ここで脅し文句にひるんではいけません。

「そんなことはやめてください」と懇願すると、「それなら、どうしてくれるんだ?」と、要求をエスカレートさせかねません。

 この事例では、ここで私(筆者)に連絡が入ってきました。

---(事例再開)---

 営業所の担当者から、私の携帯電話に連絡が入った。「いま、お時間いいですか? ちょっとご相談がありまして」と沈んだ声が聞こえてくる。

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「ボケ。なめた態度しやがって、半殺しやぞ」