命に寄り添うなんて、それまで考えていなかった私としては、まさに意表をつかれた感じでした。
「じゃあ、命に寄り添うためにはどうしたらいいのでしょうか」
と言葉を返しました。すると対本さんはこう答えたのです。
「死を命の終わりと考えるから、医療者は患者さんの救命には全力をつくしますが、死んだあとについては無関心です。私は、死は命のプロセスのひとつだと思います。そう考えれば、死を越えた命の道程が見えてきて、死に向かっていく患者さんの命に寄り添うことができるようになるのではないでしょうか」
この対本さんの言葉を聞いて、私のなかで「医療とは寄り添うこと」ということが、より大きな命題になり、死を越えるということが、ホリスティック医学の究極として鮮明になりました。
その後、対本さんが医学部に入学したと聞きました。僧衣のままでは病院には入れない、医師になって、死に行く人の命に寄り添おうと決意したのです。言葉通りのことを実行されたのです。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年12月30日号