コラムニスト 桧山珠美(ひやま・たまみ)/読売新聞、日刊ゲンダイにテレビコラムを連載。NPO放送批評懇談会理事。ギャラクシー賞テレビ部門委員会副委員長(写真:本人提供)
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 2023年にさらなる進化を遂げ、世界に新たな価値や感動を生み出すのは誰なのか。10ジャンルにおいて、その人自身も注目を浴びる専門家が、目が離せないという各10人の名前を挙げた。カルチャー分野では、コラムニストの桧山珠美さんが気になる10人をピックアップ。AERA2023年1月2-9日合併号から。

【図】桧山珠美さんが選ぶ10人はこちら

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 テレビが共通の言語ではなくなってしまった、テレビの言葉が通じなくなっている世の中なんだと実感した2022年でした。発表された紅白歌合戦のラインアップを見て、「もう自分たちの紅白ではないんだなあ」と実感する高齢者も多いのでは。中高年は放っていてもテレビを見るからと蔑ろにして、各局はテレビを見ない若い人を取り込もうと躍起になっています。ドラマの登場人物にSNSでつぶやかせたり、舞台裏を見せたり。なんとかバズらせたいと必死で、本編よりむしろそちらに力を入れているような(笑)。ドラマもさることながら、ロビー活動にも注目された一年でした。

 さらに考察ブームも過熱。「伏線」だの「伏線回収」だのと、ドラマの見方も変わり、自称、考察ドラマの仕掛け人・秋元康が調子に乗って「警視庁考察一課」なるドラマまで作ってしまいました。昭和の時代は、家族でテレビを見ながらああだこうだ言ったものですが、時を経て、いまや一億総評論家時代。テレビドラマはSNSで考察しながら消費するものというスタイルが定着しました。

 面白かったドラマは「あなたのブツが、ここに」(脚本:櫻井剛)というNHKの夜ドラです。4月からNHKは月曜から木曜まで帯で見せる15分のドラマ枠を夜にもスタート。若い世代には1時間ドラマを見るのがキツいという人も多く、15分ならネット動画と同じように見やすいのではと若者を取り込む目論見でした。結果、若い視聴者を取り込めたかは謎ですが、同作は収穫でした。コロナ禍の閉塞した空気感を見事に表現し、その中で必死に生きるヒロインに力を貰いました。あとで振り返った時に、2022年はあんな時代だった、とわかる時代を象徴するドラマでした。

 脚本家では次の朝ドラらんまん」を書く長田育恵さんも注目。NHKの秘蔵っ子です。

「エルピス」「silent」もそうですが、やはり脚本がいいと役者もよく見える。ドラマは脚本がすべて、とつくづく思います。

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