モンゴルの大学に通うサロールは、ケガをしたクラスメートに代わってアダルトグッズショップでバイトをすることになる。大人のオモチャを買いにくる客に対応し、オーナーの謎めいた女性カティアと交流するうちに、サロールに変化が訪れる──。モンゴルの「いま」を切り取った話題作。連載「シネマ×SDGs」の50回目は、映画「セールス・ガールの考現学」のジャンチブドルジ・センゲドルジ監督に見どころを聞いた。
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アーティストは常に自分の内なる世界を表現したいと考えるものです。今回、私はサロールとカティアという二人の女性を通して、自分の内面を表現しようと試みました。女性は私にとって研究してもし尽くせない芸術的な存在です。そんな女性の外面と内面の美しさを描きたいと思いました。
サロールは親に言われるまま、大学で原子力工学を学び、自分自身をまだ発見していない女の子です。カティアはロシアで名声を得たバレリーナで、自分の得た知識や美意識が周囲よりも少し先に進んでしまったゆえに、そのずれに苦しんでいる女性です。彼女はサロールに人生のさまざまを教えます。カティアはある種の私の理想です。若い人を導いてくれるこんな人物がいたらなあと思います。舞台をアダルトグッズショップにしたのは映画をおもしろくするための装置です。伝えたいことはその奥にある「自分の人生を選ぶとは、どういうことなのか」なのです。
モンゴルにも「女性はこうある方が幸せだ」という考え方がいまもあります。ですが一方で全く違った感性を持つ、若い人たちが出てきているのも事実です。サロール役のバヤルツェツェグ・バヤルジャルガルは300人のオーディションから選んだ新人です。ヌードシーンがあることも伝えましたが、それでもやるとOKしてくれました。まさに新しい時代の俳優で役にピッタリだったと思います。
モンゴル人は総じて新しいもの好きです。「家業や遊牧を継がなければならない」という縛りもなく、自由に大きな夢を追いかける若者が多いと感じます。チンギス・ハーンの時代から女性の役割が大きかったことが歴史書にも記されており、もともと女性の地位は高かったと思います。私もいま、家長である妻を恐れているんです(笑)。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年5月1-8日合併号