「大人のかっこいい音楽ってイメージはあったけど、聴いたことはありませんでした。映画がすごくよかったから、いつかジャズバーにも行ってみたい」
リスナーが増えるなか、ジャズを聴く場所にも小さな変化が起きている。編集者で全国のジャズ喫茶をガイドするサイト「ジャズ喫茶案内」を運営する楠瀬克昌さんによれば、この5年ほどで新しい店の出店が続いているという。
■技術と表現備えた奏者
「若い頃にジャズ喫茶に通っていた人が定年退職後に店を始めたり、20代、30代の若いオーナーが現れ始めた。2000年代は閉店が相次いだのですが、ここ数年は全国で600軒ほどで推移しているような状況です」
楠瀬さんがジャズ喫茶の情報を発信するインスタグラムも若い人のアクセスが多い。2.8万人のフォロワーの年齢構成を見ると、20~30代が圧倒的。若い世代のユーザーが多いSNSではあるが、60代以上は約7%ほどだという。
いつの間にか「知的おやじの音楽」のようになったジャズが再び、若者にも聴かれ始めている。1967年に東京・四谷でオープンした老舗ジャズ喫茶「いーぐる」店主の後藤雅洋さんは、ジャズを取り入れた音楽が広がったことも背景にあると指摘する。
「ユーミンをはじめ、ジャズミュージシャンを起用するアーティストは多いんです。リスナーは意識していなくても、そこにはジャズの要素がある。いつの間にか“ジャズリテラシー”が浸透している。難しい言葉ではなく聴いて楽しい音楽だということが伝わり始めたんです」
今年2月に開催された世界最高峰の音楽祭、グラミー賞の「最優秀新人賞」は、23歳のサマラ・ジョイが選ばれた。ジャズアーティストが同賞を獲得したのは12年ぶりの快挙。リスナーだけでなく、プレーヤーにも若いアーティストが頭角を現している。
「一時期は、技術偏重に陥って、うまいけれど個性がないという時代もありました。今は技術と表現の両方を兼ね備えたミュージシャンたちが、ポピュラリティーを恐れない自己表現をするようになった」(後藤さん)
(編集部・福井しほ)
※AERA 2023年5月1-8日合併号