世界中を旅しつつ、スラム街や犯罪多発地帯を渡り歩くジャーナリスト・丸山ゴンザレス。インタビューの基本は英語である。それもフィリピンで習得したアジアン・イングリッシュ。ブロークンであるがゆえに、恐ろしくも奇妙で日常生活ではまず使うこともないようなやり取りも生まれてしまう。そんな危険地帯で現地の人々と交わした"ありえない英会話"を紹介する本連載、今回のキーワードは、ニューヨークでドラッグの売人を取材中に質問した「Do you like nuts?(ナッツ、お好きなんですか?)」である。英語のテクニックによらないコミュニケーションで、何を聞き出すことができたのか。
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2015年、マリファナ(大麻)の扱いを取材するために訪れたニューヨークで、友人の紹介でドラッグの売人の部屋に招き入れられていた。
手ぶらではまずいと思い、近所のデリ(日本でいうところのコンビニ的な食料品&雑貨のお店)で買ったビール6缶パックを差し出した。相手はKevin(仮名)という長髪にヒゲの東洋系の男で、年の頃は30代ぐらい。
「I like beer, Let it drink with me.」(私はビールが好きです。一緒に飲みましょう)
「Of course. I also like this.」(いいぜ。俺も好きだよ)
ドラッグの取材に限らず、裏社会の人間と接する際にはあわてないことがポイントでもある。というのも、緊張や焦りのような強い感情というのは、相手に伝わりやすいからだ。そうなってしまっては、無用なトラブルも起こりやすい。こちらもあわてない態度を示して、相手にもリラックスしてもらうことを心がけておくことだ。また、相手に疑いを抱かせるのもマイナスである。どんな展開を作るのかはケース・バイ・ケースではあるのだが、下手なことを言って勘ぐられたりしないよう、聞きたいことを直球で質問するのも手段のひとつとして有効である。