お笑い芸人、向井慧。お笑いトリオ「パンサー」のツッコミとしてテレビで活躍しているが、向井慧の代名詞とも言えるのが、ラジオのパーソナリティーだ。四つのラジオ番組でレギュラーを持ち、「令和のラジオスター」ともささやかれる。芸人からの評価も高い。それは、常にどうしたら芸人として生き残れるか、葛藤してきた賜物でもある。天才ではないからこそ、もがいてきた。
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直前までココリコの田中直樹と談笑していた向井慧(むかいさとし・37)の顔が一瞬ひきしまった。黒いイヤホンを耳に入れ、「パンサー向井の、ふらっと」とマイクに向かってタイトルコールをする。
3月28日午前8時30分、東京・赤坂のTBSラジオのスタジオで「パンサー向井の#ふらっと」の生放送が始まった。番組開始から1年を迎え、スタジオには和やかな空気が流れている。
「ふらっと」は月曜から木曜の午前中2時間半のラジオ番組だ。曜日ごとに田中直樹、滝沢カレンらがパートナーを務め、その日の話題、ゲストの話、芸人の現場リポートなどをニュースや天気予報を挟みながら放送している。
テレビと違ってラジオは午前中がゴールデンタイムだ。通勤通学、家事、仕事中の人など、聞いている人が最も多い。1年前、その大事な枠を任されたのが向井だった。
もともと、この時間帯には「伊集院光とらじおと」が放送されていた。話術に長(た)けた伊集院はラジオでカリスマ的な人気がある。6年続いた番組が昨年3月に終了することになり、次を誰に託すのか、局内でパーソナリティー選びが始まった。営業、編成、制作が話し合う中で向井の名前が浮上する。
向井は既に三つのラジオ番組に出演していた。「ふらっと」のプロデューサー大谷正美は、このとき初めて向井の番組を聞いた。
「自分が考える朝のラジオにこんなにしっくりくる人は他にいないと思いました」
理由の一つは、ずっと聞いていられる話し方だ。速度がゆっくりで、スッと耳に入ってくる。聴く人の年齢を問わない。二つ目は誰も置いてきぼりにしないところ。ゲストやパートナーの言葉がわかりにくいときは、さりげなく説明を加える。もう一つは幅広い人と話せる雰囲気だ。ゲストがどんな人でも同じテンションで話すことができる。
「向井さんは最初の週からイメージ通りにうまくやってくれて、こちらから言うことがないくらいでした」