しかし、その人気とは裏腹に、向井は再び焦り始める。同じ曜日に出ていたチョコレートプラネットが格段に面白かったからだ。彼らは結成してまだ日が浅かった。彼らの面白さが客に伝わる前に自分たちが売れないといけない。焦りを抱えた向井の厳しさに、今度はりゅーじが音を上げる。「もうできない」と言い出し、2008年春、ブルースタンダードは解散した。

「僕が同じミスをしてしまった。楽しくできなくなっちゃって、もうおまえとはできないと言われる側を2度やっている。ここで芸人をやめようと思いました」

 一人になった向井を心配していたのが又吉だ。なんとか芸人を続けてほしかった。

「出てきただけで笑われる芸人と違って、向井は見た目も悪くないし常識もある。それは芸人としてはめちゃくちゃ大変で、あいつは30キロぐらいの重りを背負ったままお笑いをやってきたんです。そこで鍛えられた筋肉は半端じゃない」

 又吉は、向井の「お笑い勘」がなくならないように、遊んでいてもお笑いの話を交ぜた。この時期、向井にとっては又吉が芸人との唯一の接点だった。

「又吉さんがいなかったら、僕は今のようにはなれていなかったところが多分にあります。又吉さんのおかげでなんとかギリギリ、芸人やめないでいいのかな、ぐらいの感じにとどまっていられた」

 お笑い以外にやりたいことがなかった向井は考えた末、2008年6月にNSCの先輩の菅良太郎、尾形貴弘とパンサーを結成する。

(文中敬称略)

(文・仲宇佐ゆり)

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