だが、実はこの働き方改革が断行されたときに起きる、本質的な問題が置き去りにされている。

 まず、企業にとって痛みを伴う。ある政府関係者は、「生産性を上げる仕掛けがないまま労働時間を機械的に減らす。働き方改革が企業の大停滞期の引き金を引いてしまう」と危機感をあらわにする。

 2017年2月の有効求人倍率(求職者1人に対する求人数)は1.43倍と、実に25年ぶりの高水準にある。労働改革は雇用情勢が良いときこそやりやすいというのが通説だが、企業が人材投資に金をつぎ込める好景気が前提となっている。

 だが、現在の雇用改善は、少子高齢化に伴う深刻な人手不足によるもの。好景気によるものではない。ただでさえ人手不足なのに、この時間外労働のキャップがかけられることで、さらに賃金を上げないと人材を獲得できなくなる。

 待遇を上げられる企業、つまり高い生産性を実現できる企業だけが生き残り、それ以外は淘汰されてしまうだろう。とりわけ、深刻なのは運送業や建設業だ。

 日本的な雇用慣行に倣ってきた企業にとっては、抜本的な人事戦略の転換が必要になる。

 今回導入された同一労働同一賃金には、ヨーロッパ型の職務給(仕事に応じた賃金)の考え方が色濃く反映されている。だが、日本企業では年功序列が残る職能給(能力に応じた賃金)を導入しているところが多く、人事体系の見直しは必至だ。

「働き方改革は、日本的な雇用慣行の否定ともいえる。日本企業の強みである長期的な技能形成の仕組みをどの程度残すのかといった議論は不十分だ」と、山田久・日本総合研究所調査部長は指摘する。

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