広大なアフリカ大陸のうち25カ国を訪ねてきた、フリーランスライターで武蔵大学非常勤講師の岩崎有一さんが、なかなか伝えられることのないアフリカ諸国のなにげない日常と、アフリカの人々の声を、写真とともに綴ります。
北アフリカで食べられている「タジン」。とんがり帽子のような形状の鍋で、肉や野菜を煮込んだ料理です。郷土料理でもあるタジンですが、ここにもアフリカのおもてなしの心が詰まっていました。岩崎さん特製のレシピも紹介します。
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私が自宅で、しばしば再現するアフリカ料理がある。「タジン」だ。
タジンは料理名として知られているが、本来は、アラビア語で鍋を意味する言葉だ。サンタの帽子のような円錐形のふたがついた土鍋で、肉や野菜を煮込んだ料理全般を指す。タジンが食されているのは、モロッコやチュニジア、アルジェリアなど、北アフリカ諸国。現地では極めてポピュラーな料理であり、食事処でメニューにタジンないことは、まずない。私がモロッコと西サハラを訪ねた際には、ほぼ毎日のようにタジンを食べていた。
メインとなる具材は、鶏肉または牛肉、羊肉が一般的なところだが、モロッコのアガディールから西サハラのラユーンにかけての大西洋沿いではイワシのタジンが、サハラではラクダのタジンもよく食べられている。牛ひき肉を団子状にしたタジンもある。日本でいう「鍋」のようなもので、庶民料理とも郷土料理とも、場合によっては高級料理ともいえる。
具材も味付けも実にさまざまなタジンだが、これまでに食べてきた中で、ハズレだと感じたものはない。質素でも独特でも高級でも、タジンのうまさには安定感がある。
タジンを自宅で作るたびに、水の少ない土地でこそ生まれた料理だと感心している。ほんの半カップ弱しか水を加えていないのに、ふたを開ければ、野菜から出たたっぷりの水分が、具材をふっくらと煮込んでいる。玉ねぎとなんらかの肉さえあれば、水をほとんど使わずしてできるため、乾いたサハラに実にふさわしい料理といえる。
食事処でタジンを注文して食べる際には、一人用の鍋で出されることもあれば、大鍋で炊いたものから一人分を皿に移して供されることもある。ただ、できれば、タジンは複数人で食べたい料理だ。
私がモロッコから西サハラにかけて訪ね歩いた際には、食堂でタジンを食べている最中のグループや家族から、輪に加わるよう声をかけてもらったことが何度もあった。日本でも、北アフリカでも、やっぱり鍋は皆でつついたほうがおいしく感じるものだ。