春ねむりさん(撮影/小財美香子)
春ねむりさん(撮影/小財美香子)

「音楽をやりたいけど親には言えないし、どうしよう……と悩んでるうちに大学に行けなくなってしまったことがあって。周りの友達が鬱病になったりもして、どうしてこういうことが起きるんだろう?と考えたときに、一般的に“健常”とされているシステムがどう考えても“不合理”だよなと。それが大学で学んだ哲学や思想と結びついて、アナーキズムを知って、そこからフェミニズムに辿りついて。そうすると過去の出来事に対して“あれって怒ってよかったんだ!”とか、いろいろ気づきはじめたんですよね」

インディペンデントに切り拓く海外進出

 2018年に1stアルバム『春と修羅』をリリースした後、アジア各国をまわるツアーを開催。スペインの大型フェス「Primavera Sound」に出演するなど、ヨーロッパでも公演を重ねた。さらに2022年に発表された2ndアルバム『春火燎原』が、辛口で知られるアメリカの音楽メディアPitchforkで高い評価を得たことで、海外における知名度をさらに高めた。

「最初から海外で活動したいと思っていたわけではないんです。2010年代の後半は円が高くて、沖縄でも台湾でも飛行機代がそんなに変わらなかったんですよ。だったら台湾でライブしてみる?という感じだったんですけど、そのうちに〈春ねむりは海外でライブをやる人だ〉と思われて、いろいろ声がかかるようになって。アジアもヨーロッパも、反応は激熱でしたね。日本では静かに聴かれることが多かったから、海外でライブをやるたびに〈これでモッシュやダイブが起きるとか、ウケるな〉って楽しんでました(笑)」

春ねむりさん(撮影/小財美香子)
春ねむりさん(撮影/小財美香子)

“特権性”とライブのあり方を問う

 パンクロック、ヒップホップ、エレクトロなど幅広いジャンルを取り入れたサウンド、そして、激しく、エモーショナルなパフォーマンスによって支持を得た春ねむり。ただ盛り上がるだけではなく、ステージから発する真摯なメッセージも彼女の特徴だ。

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