
“日本版グラミー”を掲げた国際音楽賞「MUSIC AWARD JAPAN」の開催、YOASOBI、Creepy Nuts、藤井風、Mrs. GREEN APPLEらの楽曲がグローバルヒットするなど、J-POPの海外進出に向けた動きが進んでいる。アニメ、アイドルをはじめとするジャパンカルチャーの浸透、経産省によるエンタメ・クリエイティブ産業戦略などが、その要因は様々だが、そういった文脈とはまったく関係なく、インディペンデントな姿勢を貫いたまま、海外での強い支持と評価を獲得しているアーティストがいる。横浜出身のシンガーソングライター/ポエトリーラッパー、春ねむりだ。

満員電車が苦手で“ここで叫びたい”と思っていた
高校時代、邦楽ロックに興味を持ち、両親に買ってもらったシンセサイザーに付いていた簡易版の音楽制作ソフトで打ち込みのトラックを作り始めたのが、音楽にのめり込んだきっかけ。ボーカル・ギター担当の友人とユニットを組んだ後、大学入学後にソロアーティストとして活動をスタートさせた。
「歌が下手だったので(笑)、最初の頃はポエトリーラップ(詩を朗読するようなラップ)が中心でした」という彼女。歌詞の内容は、日記から持ってくることが多かったという。
「大学で倫理学を専攻していたのですが、そこで学んだことが日常生活と結びつくことがあって、それを日記に書いていたんです。たとえば、私、当時から満員電車がすごく苦手で、いつも“ここで叫びたい”と思ってたんですよ(笑)。なぜ叫ばないかというと、周囲の人の眼差しによって主体が形作られているから……なるほどサルトルか、とか。そういうことを抽出して歌詞にしてましたね」
哲学と倫理学が歌詞の源泉に
楽曲に込められた思想や価値観は、作品を重ねるごとに鋭さと強さを増していった。その根底にあるのは、哲学や倫理学を通して得た知識、そして、社会や世間から要請される人生の在り方に対する違和感だ。