
平幕の琴勝峰が13勝2敗で初の賜杯を手にした、大相撲の名古屋場所。安青錦や草野など若い力士が躍動する一方、新横綱・大の里や、「次の大関」を狙う三役力士たちはどう戦ったのか。70年にわたって大相撲を見続けてきた伝説の相撲ジャーナリスト・杉山邦博さん(94)は、「大相撲はまさに、戦国時代に入った」と指摘する。(前後編の後編/前編はこちら)
──今場所は久しぶりに、東西に横綱がそろうという点でも注目が集まっていました。
私も楽しみにしていました。ただ、豊昇龍(横綱/1勝4敗10休)が2日目から3連敗、早々と休場しました。足の指を痛めたとのことでしたが、大関以下の力士だったら100%、休むことはない程度の故障だったと思います。私は、出続けてほしかったですね。その点は、批判されてもやむを得ないのではないでしょうか。
新横綱に「がっかりした」の声
──3連覇が期待された新横綱・大の里(11勝4敗)には、がっかりしたという声もありました。
私に言わせれば、それは酷というものです。相撲界に入って2年そこそこの力士が、いくら横綱とはいえ、易々と3連覇できるような甘い世界じゃありません。彼はまだ成長過程。私は、今場所は優勝は無理だと場所前から思っていました。千秋楽に彼に会ったとき、「大変だったと思うけど、とにかく二けた勝ったんだから、横綱としての責任は最低限、果たせた。そう思いなさい」と伝えました。彼はニコッと笑ってくれました。それでいいと思います。
──とはいえ、あらためて見えてきた課題はどんなことでしょうか。
技術面ではまだまだ発展途上だということを、何より本人が厳しく自覚したと思います。「すぐに引いてしまう」という欠点が、負けた相撲で目立ちました。この悪癖は何としても封印しなければいけません。引いて勝とうとする安易な道を選んで、かりに白星が得られたとしても、伸びしろがそこで失われてしまいます。