
各界の著名人が気になる本を紹介する連載「読まずにはいられない」。今回はフリーライターの石飛伽能さんが、『アウト老のすすめ』(みうらじゅん著)を取り上げる。AERA 2025年8月4日号より。
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イイ大人が楽しそうにはしゃいでいるなぁ。かつて「タモリ倶楽部」を見ていた視聴者が羨望の眼差しを持ってニヤついていたのは、そこが遊びの精鋭たちのプレイルームであったから。
〈『タモリ倶楽部』が他のバラエティ番組と大きく違ってた点は、世間が認めるタレントに混じってザシタレが堂々と出演していたところである〉と著者は言う。ザシタレは雑誌制作に携わるスタッフやコラムニスト、作家らのことで、山田五郎、いとうせいこう、安齋肇、故・ナンシー関、そしてみうらじゅん自身ももちろんザシタレの一派。
雑誌の衰退とともにザシタレの存在感は薄れ、新たなザシタレスターも輩出されにくくなっている昨今、自らを「ラスト・ザシタレ」と名乗る著者。だが、みうらじゅんという存在自体がもはやその枠をはるかに超えている。
「マイブーム」「ゆるキャラ」「老いるショック」といった独特の造語は人々の腑にどしどし落ちてあっという間に普及した。誰も見向きもしなかったご当地キャラをアイドルに押し上げた功績は誰もが知るところである。

「アウト老(ロー)」は、わりと最近考えついた造語だという。限りある人生、世の中における“フツーである”“フツーではない”という概念を取っ払い、ちょっとでも気になることがあったら食らい付き、出費を惜しまない。アウト老の辞書に“終活”の文字はなく、あるのはくだらないものを集め続ける“集活”だ。
アニメ「おさるのジョージ」に出てくる“黄色い帽子のおじさん”の人形を菩薩と思い込みイライラしたときに拝んだり、二十歳になったレッサーパンダの風太くんに会いに行き老体の風太くんのファンサービスに感動しながら抱き枕風クッションを買ってみたり、1ドル百何円の時代に70万円で買ったラブドール・絵梨花さんに憑依して愚痴を言ってみたり。
コスパだタイパだと何かと効率を重視する昨今の風潮からは程遠い言動は、もはや感動的でさえある。ご本人は読者に思う存分呆れてほしいらしいが、立派なアウト老になるには、きっとセンスと熱意が必要なのだと思い知らされる。イイ大人が楽しくはしゃぐためのある意味、指南本だ。
※AERA 2025年8月4日号
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