発泡酒でささやかな晩酌を楽しむ叔父
西田は川崎の市営団地で幼少時を過ごした。父親は、NECの子会社に派遣で働いており、生活は決して楽とは言えなかった。この父親が、アマチュア無線をやっており、海外の生活へのあこがれもあって、仕事がみつかると西田が4歳のときにオーストラリアのメルボルンに一家で移住した。
西田は小学校から大学までオーストラリアの学校に通ったが、土曜日にある日本人学校だけが、日本に接する唯一の機会だった。この土曜日の学校では、大手企業の駐在員の子供が日本の雑誌やテレビ番組を録画したVHSをもってきてくれた。そうした日本のドラマを繰り返し見ることで、西田は日本語を覚えていったのである。なかでも「東京ラブストーリー」や「ロングバケーション」を夢中になって観た。フジテレビという会社がつくったドラマだった。
そして東京に赴任した西田は、東証上場企業のPBRをひとつひとつ見ていく。顕著な傾向があるのがわかった。銀行株は安い。1を下回るものがある。が、それよりさらに安いのが、テレビ局の株だった。
そうしたテレビ局の株の中でももっとも安い株が西田の目をひいた。
PBRはわずか0.2台。自己資本利益率(ROE)をあげれば、4~5倍の価格になる株だ。
西田はフジ・メディア・ホールディングスの株を買いすすめ、それが5パーセントを越え大量保有報告書で明らかになったのが、2023年の12月のことだった。
西田の父親が育った家庭は裕福と言えず、西田の叔父は今でも晩酌には、節約のために発泡酒を飲んでいるという。
「一缶あたり数十円の節約をしながら晩酌を楽しみ、つつましやかに生きている叔父のような人々と、一兆円におよぶ負債をおしつけられる契約を平気でむすぶ大企業の経営陣の乖離はどこでおきるのか。そんなことを日本企業の不良債権を扱いながら考えていました」
以下、7月22日発売の次回を待て。
※AERA 2025年7月14日号
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