オガワが指摘していたのは、西田が東芝=ウエスティングハウスのディールで感じていたこととまったく同じだった。日本企業の多くは、株式の持ち合い(これを政策保有株という)によってガバナンス不全になっている。そのため本来の力を発揮できていない。
そのオガワから紹介されたのが、ダルトン・インベストメンツの創業者ジェームズ・ローゼンワルドだった。西田はすでにアクティビストファンド二社からのオファーがあったが、このドジャース帽をかぶった男と馬があった。ローゼンワルドは祖父のてほどきで14歳から投資を始めている。祖父は「バリュー投資の父」と呼ばれるベンジャミン・グレアムの下でアナリストを務めた男だった。グレアムはウォーレン・バフェットを育てたプロの投資家として有名だった。
このグレアムの投資方法は、短期の売買ではなく、市場で過小評価されている株を買い長期で保有するというものだった。そして市場で過小評価されているか否かを探る指標として有効なのが、PBR(株価純資産倍率)であるとしていた。
このPBRの計算方法は単純で、株価をその会社がもつ一株あたりの純資産でわるのである。
つまりその日会社が解散したとすれば、株主には、その資産分が返ってくるわけで、このPBRが1ということは、投資した株価の分だけは返ってくる。これが1を上回ると返ってこない。逆にこれが1を下回っている場合、不動産などの資産をもっているだけで、本業でたいした経営をしていない、だから本業の業績がわるく、株価が不人気で安い。
アクティビストファンド(物言う株主)は、こうした経営に対して、適切な助言、時に株主提案をして、PBRを1に近づけていく。そして充分な利益がとれるとなったらば株式を売って利益を確定させるのである。
西田がローゼンワルドのオファーをうけてダルトン・インベストメンツに入社をしたのが、2021年5月のことだった。
「自分が学んだコーポレートガバナンスを日本の企業に対してやりたいという希望があった。即座に東京に赴任させてもらいました」