
筆記試験に必要な学力だけではなく、課外活動や学校以外での体験が評価されるようになった。詰め込み式教育からの脱却として歓迎される一方で、「体験格差」という新たな課題が浮き彫りになっている。AERA 2025年7月7日号より。
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東京都の女性(39)は先日、中高一貫の私立中学に通う娘の保護者会に参加して暗澹たる気持ちになった。壇上に立った男性教諭が、卒業後の進路説明で都内の難関私立大学の理系学部に推薦入試で合格した先輩のエピソードを説明したのだが、その内容が「すごかった」という。男性教諭はこう話した。
「この生徒は星が好きで、夏休みの自由研究は毎年、星をテーマにしたものでした。家族みんなでハワイまで南十字星を観に行ったレポートを出してくれたこともあります。その想いを論文にまとめ、見事合格をしました」
女性は言う。
「そこまでやらなければいけないのか、と……。子どものために、とは思いますが、時間もお金もそんなにかけられる気がしなくて、クラクラしました」
大学受験で「年内入試」が中心になって久しい。そのうち、いわゆる総合型選抜による入試では、志望理由書・調査書などの書類選考と面接や小論文、プレゼンテーションやグループディスカッションで合否が決まる。
文部科学省の調査によると、2023年度の全大学の入学者をみると、総合型選抜や学校推薦型選抜の合格者が半数にのぼる。私立大学に限れば年内入試は6割に上り、国公立大学でも今後、総合型選抜の割合は増えていくとみられている。
総合型選抜を勝ち抜くために必要なのは、学力以外の「体験」だ。都会ではなかなかできない農業体験や潮干狩りなどをイベントとして“集客”するスタイルも広がり、それらの情報が気軽に手に入るアプリやウェブサイトもたくさん生まれている。
つまり、「体験」をお金で買うことが一般的になりつつあり、自然環境が身近にない都心ほど、家庭の経済状況による「体験格差」が生まれてしまっている。
子どもの体験活動についての研究を続ける国学院大学人間開発学部子ども支援学科の青木康太朗教授は、「体験格差は社会課題だと思っています」として、家庭を四つのパターンに分けて、こう説明する。