
しかも、親が必死になって体験をさせても、子どもがさほど楽しんでくれなかったというのもよくある話だ。大学生から幼稚園まで3人の子を育てる都内の50代の女性は、かつては「体験」探しに必死だった。だが大学生になった長男に幼児期の話をすると「覚えてない」と言われ、やるせなさを感じているという。
また、必死な思いが親のストレスを生むこともある。青木教授は、こう指摘する。
「毎週新しい場所に行くよりも、遊び慣れた公園で過ごす方がいいこともあります。自然体験は遊び慣れた近所の公園で虫と戯れるだけでもできます」
中1の息子を漁村留学へ、子ども自身が選んだ体験を
親が無理をしてつくる体験よりも、子ども自身が選んだ体験であることが重要なのは言うまでもない。子ども主導で大冒険を決意した家庭を紹介しよう。
横浜市に住む女性(49)は今春、中学1年生になった息子を漁村留学に送り出した。参加したのは、宮城県石巻市で漁業体験などを行う公益社団法人MORIUMIUS(モリウミアス)が実施する1年間のプログラムだ。
息子は小学生の頃から近所の河口に行っては魚を釣り、釣った魚を捌いていた。「黒鯛を釣ってくることもあって、『川に黒鯛がくるの?』と聞いたら、干潮の時だけくるんだと。釣り方も自分で調べてやっていました」(女性)
親に言われた訳でもなく、捌き方もYouTubeで調べて自分でやっていた。海の生き物に夢中になっている様子をみて、そんなに海が好きならばと、体験活動を調べる中で、漁村留学を知ったという。息子自身が参加したいと言い出し、今は同法人が持つ寮で暮らしながら近くの公立中学に通っている。日常的に地元漁師とも交流、海の知識を深めているという。女性は言う。
「地元の中学が荒れていて、中学受験も考えましたが、本人はまだ勉強に興味のある様子ではなかった。漁村留学に行きたいと言い出した時は『本気!?』と思いましたが、彼にとっていい体験になると思っています」
親主導か、子ども主導か。体験に至るプロセスも体験の価値を変える要素になる。
(フリーランス記者・宮本さおり)
※AERA 2025年7月7日号
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