
備蓄米の放出で安いコメが市場に出回り始めたとはいえ、まだまだ高値が続くコメ。背景の一つには、自民党の農林族、農協、農林水産省の「農政トライアングル」が価格の急騰を放置していたことがあった。
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森山裕先生、武部新先生、宮下一郎先生……。司会者は、大会に参加した自民党国会議員らの名前を次々と読み上げた。途中で退席した議員も含めて約120人の名前が約5分間続いた。
2023年5月、東京・半蔵門のホールで食料・農業・地域政策推進全国大会があった。催したのは、全国の農協をとりまとめる全国農業協同組合中央会(JA全中)。オンラインも含めて全国から4千人が参加。与党に農業の振興策を訴え、予算を増額してもらおうと会場は熱気でいっぱいだった。
大会では、自民党農林族のドンと呼ばれる森山裕幹事長(当時は選対委員長)が講演した。森山氏は、今の農業政策は自由競争が重視されて効率化が優先された結果、「農家と地方が疲弊している。これを是正しなければいけない」と力を込めた。「競争や改革は必要」と言いながらも、家族経営や小規模な農家を生かすことが大事だと説き、地方や農業を重視していく姿勢を強調した。
大会は年に1度で、24年5月も同じように与党の国会議員の名前が読み上げられた。自民党を代表してあいさつに立った党総合農林政策調査会の江藤拓会長(当時)は食料安全保障を強化する方針を掲げ、「(有事で)海上封鎖が起こればすぐに日本人は飢えてしまう。今の農地面積では日本人を食わせるのは難しい。これを打破できる農業予算の拡大が必要だ。党を挙げて行動していく」と力強く訴えた。
作物への補助金やかんがい施設の整備といった農業予算を確保したい農協組織。一方で、後援会を強化したい自民党の国会議員たち。農協幹部は地元では名士が多く、自民党議員の後援会の役員を務めることが多い。特に地方では、自民党と農協はそんな持ちつ持たれつの関係を長らく続けてきた。実際に予算化して支出するのは農林水産省のため、自民と、農協、農水省の強い結びつきは「農政トライアングル」と呼ばれ、戦後の農政の土台となってきた。