国民1人当たり2万円の給付金が及ぼす家計へのインパクトはどうだろう。

 1世帯当たりの平均所得557.1万円(24年の試算値)に対する、1世帯当たりの給付金支給額は約5.6万円(試算値)。ということは、今回の給付金は名目所得の1.0%のインパクトになる。24年度平均の全国消費者物価指数で、生鮮食品を除く総合指数が前年度比2.7%上昇だったことを踏まえると、「物価上昇で失った購買力の一部を現金給付で補てんする」(同)程度が相当といえそうだ。

 野さんはさらに、世帯主年齢別に約3.1兆円の現金給付がどのように分布しているのかも試算した。それによると、年代別の給付額は、40歳未満が5668億円(全体の18.4%)、40代6137億円(同19.9%)、50代5264億円(同17.1%)、60代4140億円(同13.4%)なのに対し、70歳以上が9636億円(同31.2%)とシニアに手厚い支給になる可能性が浮かんだ。

 なぜこうなるのか。主因は「住民税非課税世帯の大人への加算」にあるという。住民税非課税世帯は全世帯の3割近く。このうち8割超が60歳以上だという。

「住民税非課税世帯は、『低所得者向け』というニュアンスがありますが、実際はほとんどが60歳以上のシニア向けです。住民税や所得税を支払っている納税者の中には、自分たちが収めた税金が、横滑りして住民税非課税世帯の人たちに給付されているような感覚の人もいるのでは」(同)

 とはいえ実際、低年金のため生活に困窮している高齢者が少なくないのも事実。これについては、年金制度改革を不十分なまま放置している政治の責任が問われるべきだ、と熊野さんは訴える。

「年金だけでは生活できない人たちが多いのは、04年の年金制度改革で導入されたマクロ経済スライドを含め、これまでの年金制度改革が持続性を担保できていないからです。その事実を覆い隠すような形で、住民税非課税世帯への現金給付という弥縫策を繰り返すのは、政治が年金問題の解決の糸口を見いだせていないことの裏返しです」

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