これまでは介護士としてサービスを提供する側だった。初めて入居者家族という立場になり、介護する側と介護される側の両方の目線で現場を見ることになった。
自身の職場でも、現場の職員の「質」がさらに落ちていく現状を目の当たりにしてきた。
「現場は常に人手不足。求人を出しても人材は集まらず、多くの施設で専門性が低い人を雇わざるをえない。時間もないし、教育も追いついていかない。高い志を持ったプロフェッショナルな人は皆、そんな職場に問題意識を持って辞めてしまう。だからずっと負のスパイラルなんです」
電話の向こうで怒鳴り声が
「こんな時間にかけてくんじゃねーよ!」
保留になっていなかった電話の受話器越しに、怒鳴り声が聞こえてきた。
東京都内に住む60代女性が、母を預けている特別養護老人ホームに電話をしたときのこと。スタッフも忙しいだろうと、あえて夕食の時間を避けてかけた電話だった。
要介護5で寝たきり、言葉を発することができない母のために「せめてオレンジジュースで口を濡らしてほしい」などと、日頃から頼んでいた。そんな細かい要求が、施設のスタッフには「カスハラ」になっていたのかもしれないと思う。担当のケアマネジャーも辞めてしまった。
でも、それは「母を大事にしてほしい」という一心だった。
「医療や介護の弱者である利用者家族側に、職員が寄り添った接し方ができるようになることが、解決策と思います。適切な対応ができていないことへのクレームをカスハラと言うのであれば、いつまで経ってもカスハラは減らないのでは」