昨年7月に厚生労働省がまとめた「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、これから要介護、要支援の認定を受ける高齢者数の予測をふまえて必要となる介護職員を試算した結果、2026年度には約240万人、40年度には約272万人となる。
しかし、これから毎年、働き手を増やしていく必要があるにもかかわらず、厚労省が6月に発表した資料によれば、23年度の介護職員数は約213万人。前年度の約215万人から減少してしまった。
23年に厚労省が発表した「雇用動向調査」の結果も、関係者に衝撃を与えた。22年に介護業界では初めて、新規に働き始める人よりも辞める人が上回る「離職超過」になり、人材流出の現状が浮き彫りになったのだ。
昨年に「離職超過」は解消されたものの、これからさらに進む高齢化を見据えれば、人材の安定的な確保は待ったなしの状況にある。
人手不足が招くカスハラ
カスハラにしっかり対応することで、現場で働くスタッフを守り、離職を防ぎたい介護の現場。しかし、現場での人手不足もカスハラを生む土壌になっていると、介護福祉の問題を専門とする弁護士法人「おかげさま」(東京都)の代表弁護士の外岡潤さんは指摘する。
たとえば、職員の人手が足らず、口の中を清潔に保つ口腔ケアを丁寧にする時間がなかったところ、たまたま訪問した家族がそれに気づき、『口の中が汚れている』『ちゃんとやってもらっていない』と疑心暗鬼になる。そうやって軋轢が生まれてしまう状況があるという。
「残念ながら、昨今の職員の質の低下は否定できません。専門性が足りないことで未熟なサービスになり、利用者や家族の不安を招いてしまう。そうした苛立ちがカスハラという形で噴き出すのです」
「紙、食べないでください。ヤギですか」
東京都内のとある施設で、若い職員が認知症の入居者に向かって放った言葉に、たまたま自身の父親の面会に来ていた60代のベテラン介護職員は耳を疑った。