
高齢者介護の現場で、サービスを利用している高齢者やその家族からの暴言、暴力、過度な要求といった「カスタマーハラスメント」(カスハラ)に対し、厳しい目が向けられるようになってきている。事業者側は毅然とした対応を取り、悪質な場合は契約も解除できるとされる。一方、利用者側には「家族のために」という思いがあり、こだわりの強い要求が事業者にとって「過度」なものになっているとの認識が薄いケースが多いという。
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自分がしていることが、カスタマーハラスメント(カスハラ)になるとは、思ってもいなかった。
東京都内の有料老人ホームに入居している記者の父(当時90)と面会したときのことだ。
認知症が進み、自分でトイレには行けるものの、着替えや下着の交換はできない父。介助のために一緒にトイレに行くと、父のズボンに便がついていることに気づいた。使い捨てのリハビリパンツやパッドにも、尿と便が大量に付着していた。
「ちょっと待っててね。今、交換してもらうからね」
便座から立ち上がろうとする父を片手で止めながら、コールボタンで介護スタッフを呼んだ。
しかし、誰も来ない。廊下に出ても、人の気配がない。
職員は10分ほどしてやってきたが、大急ぎでパッドとリハビリパンツを交換すると、あっという間にいなくなってしまった。急いでいたためか、ドアの前には使用済みの下着や手袋が置きっぱなしになっていた。