スマホを操作していると、傘は肘にかけてしまいがち。そうすると傘先はハの字に開き、周囲に傘先が向く。(写真はイメージ/GettyImages)

「仕事帰りの夕方の電車で、斜め後ろに立っていた男性の傘が私のふくらはぎに当たっていました。最初は“混んでる時はお互いさま”という気持ちで我慢していたんですが、ツンツンあたる傘先から水滴がスーッとふくらはぎをつたって落ちてきました。『ああ~、気持ち悪いなあ』と思いながらも耐えていたんですが……電車が揺れた瞬間、ツンツンしていた傘先が私の長靴の中にブスッ! ショート丈の長靴に傘が入ってきて、とっさに振り向いて“オイ!”と男性に言ってしまいました」(40代、女性)

 他にも、電車内で他人の傘が当たり不快に感じている人の声は次々と出てくる。

「たくさんの紙袋を腕にかけ、その上に雨にぬれた傘を肘にかけて、隣の車両に移動するために歩いている女性がいました。その傘先が、座席に座っていた私が手に持っていた文庫本にツンと当たりました。パッと顔を上げましたが、その車両の他の乗客にもツンツン当てていっていました。みんなイラっとしてましたね」(50代、男性)

「傘の先端は汚いわけじゃないかもしれないけど、地面につけているものが服やからだに当たるのは嫌。だけど、注意はできないから、傘先をツンツンしている人をにらんだりする」(20代、女性)

 持ち方によって、傘や水滴が他人に触れていることに気づいていない人が数多くいるのだろう。

問題視された傘の「横持ち」

 かつて傘の持ち方で問題視されたのは「横持ち」だ。傘の真ん中あたりを手で持つ「横持ち」は、2020年にある眼科医が、目に傘先があたった場合、視力を失うこともあるかもしれないのでやめてほしいとTwitter(現在のX)でつぶやき、バズったこともある。「横持ち」はたしかに危険が伴うが、「傘先ツンツン」は、イライラ以上トラブル未満といったところか。

 傘ツンツンに私たちがイライラしてしまう心理について、パフォーマンス心理学の第一人者である佐藤綾子さんは「電車内では理想とする対人距離の理想を保てないことが原因」と話す。

 対人距離とはパーソナルスペースと言われ、アメリカの文化人類学のエドワード・ホールが、「密接距離」(0~45cm)、「個体距離」(45~120cm)、「社会距離」(120~360cm)、「公衆距離」(360cm以上)と分類。それぞれの距離は、相手との関係性や、コミュニケーションの目的に応じて使い分けられる。

 この対人距離の研究のひとつとして、佐藤さんは電車内で「保ちたいと思う距離」を調査した。

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