「直接支払い」と「収入保険」とでは大違い
減反を廃止して米価が下がったときの対策として、石破茂首相は対象者を限定した「直接支払い」に言及している。直接支払いとは、生産量や耕作面積に応じて、農家に直接支払う交付金だ。
コメ価格が下がれば、コストの高い零細な兼業農家は農地を貸しだすようになる。例えば5ヘクタール以上の主業農家に限って直接支払いをすれば、主業農家の地代負担能力が上がって農地は主業農家に集積する。
主業農家の生産コストが低下して収益が上昇するので、元零細農家に支払う地代も上昇する。消費者は減反廃止とコメ農業の効率化によって二重にコメ価格低下の利益を受ける。主業農家に限定するので、財政負担は今の3500億円の減反補助金の半分以下で済む。主業農家や零細農家などの農業者、消費者、納税者にとって三方よしの政策だ。
これに対して、小泉農水相は「収入保険」に言及している。
これは農産物価格が低下するなどして農家の収入が低下するときに補塡するものである。
対象者は青色申告をしている農家であればだれでもよい。兼業農家は青色申告をしていないかもしれないが、JA農協はこれらの農家が価格補塡を受けられるよう、手助けをするだろう。結局すべてのコメ農家が価格補塡の対象となってしまい、零細兼業農家温存という今まで通りの農政になってしまう。かつての民主党の戸別所得補償と同じくバラマキで、構造改革に逆行する。
収入保険は減反補助金と同じ
いまは、主食用のコメから麦や大豆、あられ・せんべい、輸出用、エサ用のコメなどに転作した場合に、減反(転作)補助金を出している。収入保険による価格補塡は、これまでの転作作物への助成からコメ生産自体への助成に切り替えることになる。
減反廃止でコメの生産量は増える。そのうえ、すべての農家に価格補塡してしまえば、価格の低下と対象数量の増大によって、どれだけ財政負担が増えるかわからない。消費者は減反廃止の効果しか受けない。コメ農業も効率化して世界市場を開拓することは困難となる。
そもそも、収入保険は、一定の価格水準を想定して需給変動によって価格が低下する際に対応しようとするものである。減反廃止によって、価格水準自体が大幅に引き下がる場合に適用するのは制度の趣旨からもそぐわない。