卸売業者の利益が増えたワケ

 しかし、気になることがある。

 第一点は、ある大手卸売業者の営業利益が前年比500%となっていることや最大で「五次問屋」まで存在することを指摘して、「流通が問題である」と主張していることだ。

 なぜ、営業利益が増加しているのだろうか? これを分析しないで、単に卸売業者が儲けているのはけしからんという情緒的な対応になっていないだろうか?

 コメのように鮮度が重要な食品や農水産物の場合、販売のルールは“先入れ先出し”である。古いものから販売していくということである。そうしなければ、腐ったり食味が落ちたりしてしまう。

 卸売業者がJA農協から昨年買っていたコメ(令和5年産米)の相対価格は、1万5000円台だった。ところが現在、卸売業者は玄米60kgあたり2万7000円でJA農協から買っている。1年間で8割も上昇したのだ。

図表=農水省HPより

 小売り段階では、精米価格5kgあたり2500円だったものが4200円となっている。

図表=農水省HPより

  この価格に合わせて卸売業者全体が高い価格でスーパー等に売っている。ある卸売業者が買ったときの値段が安かったからといって、安く売れば、スーパーがいま売れる価格にあわせて販売し、利益を上げるだけだ。価格というのは、需要と供給で決まる。需要が高いものについて供給が足りなければ、価格が上がるのは経済学の常識だ。

価格低下の損失を補塡するのか

 そして、買うときも時価、売るときも時価である。

 つまり、1万5000円で買ったものが、先入れ先出しの原則から売るときに2万7000円になったのなら、利益が出るのは当然である。

 逆に、備蓄米や輸入米の放出の効果が上がって、米価が例えば2万円に下がれば、2万7000円で買ったコメを売らざるを得なくなった卸売業者は損失を被ることになる。現在卸売業者の利益が増加しているのは、このような特殊な事情があるからだ。恒常的に高い利益を上げられるものではない。いまの儲けを批判するなら、価格低下で損失が生じた際には、政府は損失補塡をする必要がある。

 五次問屋が存在するかどうかは不明である。あるとしても特殊なケースではないだろうか。スーパーのバイイングパワーによって安価な販売を要求されているときに、多数の卸売業者が介在して多額のマージンを稼ぐようなことは想定しにくい。

 もしそのような実態があるなら、どうして昨年まで5キログラム2000円台のコメが販売されていたのだろうか? 突然五次問屋が出現して、コメの値段を4000円台に引き上げることになったのだろうか? つじつまの合う説明は困難だろう。

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