トーキョーブンミャクのブースで(撮影:福光 恵)

作り手から読者の手に

「薄暗い話を多く取り上げています。寂しさや悲しい気持ちでいっぱいにならないように、軽やかさを意識して文字を選びました」。(川成さん)

 でもそこが余計に切ないのが、皮肉なものなのだが。

 もうひとり、「トーキョーブンミャク」という出版レーベルを運営しているのは、西川タイジさんだ。この日、ブースに立っていた作家のすなばさんが10代から30歳までに書いたエッセイや旅行記などをまとめた「さよならシティボーイ」を編纂したほか、自身もZINEの書き手として知られている。ZINEを作る楽しみって?

「直接読者の方、書店の方に販売できることで、コミュニケーションが取れたり、交流ができることですね」(西川さん)

「大規模な流通に乗らないからこそ、作り手から読者の、手から手に渡っている感覚が強いところが楽しいです」(すなばさん)

 こうしてブースで話を聞くと、多くの作家が会社員などの仕事を持ち、「明日会社だから」とか、「今日これから夜勤なんっすよ」とかの声が、あちこちから聞こえてくるのも、文学フリマならではだ。

木爾チレンさんとけんごさん(撮影:福光 恵)

作家が直接手売りも

 一方、大手出版社から作品を出している作家が、ZINEを手作りして、文学フリマで手売りする例もある。ブース前にサインを求める行列ができていた小説家の木爾チレンさんと、夫で小説紹介クリエイターのけんごさんのブースもそのひとつだ。

「ここではいつものエンタメの型に縛られず、少女だった自分が書きたかった詩のような小説を自由に書いています。自分で作った本を、自分の手で直接渡せる感覚は、サイン会とも違う特別な体験と感じています」(木爾さん)

「読者同士のつながりを本当の意味で生み出しているのは、ZINEのような手づくりの媒体や、実店舗の書店なのだと心から思います」(けんごさん)

(ライター・福光恵)

AERA 2025年6月9日号より抜粋

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