大澤真幸著『西洋近代の罪 自由・平等・民主主義はこのまま敗北するのか』書籍の詳細はこちら

 トランプ現象を理解する上でも、終末論は鍵となる。無論、キリスト教国であるアメリカの国民は、もともと、終末論に馴染んでいる。その上でなお、トランプ政権やその支持者たちのエキセントリックな行動は、強い終末論によって駆動されている、と解釈することができる。『ショック・ドクトリン』で知られるジャーナリストのナオミ・クラインとドキュメンタリー映画監督のアストラ・テイラーは、ガーディアン紙に寄稿した長文の論文で、このように論じている(*2)。

 トランプ支持者には、二つのタイプの層がある。右翼的な傾向をもつポピュリストたちと、テクノ・リバタリアンたちである。前者は、キリスト教福音派などの宗教的右派と親和性が高いので、彼らが世界最終戦争やその後にやってくるはずの千年王国を待望しているという点については、わかりやすい。

 クライン等によれば、それだけではなく、テクノ・リバタリアンたちを駆り立てているのも、一種の終末論である。こちらの終末論は、資本主義と結びついた終末論で、「加速主義」と呼ばれている思潮の中で展開される。加速主義は、資本主義のダイナミズムを、つまりイノベーション(技術革新)を徹底して加速させようと唱える思想だ。資本主義のもとでのイノベーションとは、結局のところ、「創造的破壊」(シュンペーター)のダイナミズムだ。ゆえに、それをある閾値(いきち)を超えて加速させたときには、社会システムのトータルな破壊と新しいものの創造とがほとんど一致してしまう。いったん終末論的な破綻(はたん)があった後に、来たるべきものが現れる、というヴィジョンが得られることになるのだ。

(「一冊の本」2025年6月号「この世界の問い方37」〈朝日新聞出版〉より)
 

こちらの記事もおすすめ トランプ政権「ハーバード大留学生受け入れ禁止」は対岸の火事ではない 日本政府が着々と進める「学問への介入」の実態 古賀茂明
[AERA最新号はこちら]
次のページ 抑圧されたものの回帰