男性上司や女性の先輩社員から体形をからかわれてつらかった。でも、その気持ちに誰も気づいてはくれず、助けてもくれなかったという(写真:写真映像部)
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 様々なハラスメントの中でもセクハラは、被害に遭った人が誰にも打ち明けられず傷を抱え込む傾向がある。職場でこうした被害が起こらないために企業に必要な環境と意識改革とは。AERA 2025年5月26日号より。

【グラフ】セクハラを受けたことによる心身への影響

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 人としての尊厳を踏みにじられ、仕事やキャリアを失い、心身に深刻な影響を受ける。それでも誰にも打ち明けられず、一人で苦しみを抱え込む──。職場でのセクハラや性被害をなくすにはどうすればいいか。

「まずは、企業において課せられているセクハラの予防対応の義務を徹底させることが重要です」

 こう語るのは、企業でのハラスメント問題に詳しい、「独立行政法人労働政策研究・研修機構」副主任研究員の内藤忍(しの)さん。

 国は事業主にハラスメント対策を義務づけ、「相談窓口の設置」や「再発防止措置」など10項目を求めている。しかし、厚生労働省の全国調査では、10項目すべてに取り組んでいる企業はわずか19.4%。そのため、適切な対応を受けられないケースが多い。まずは、この10項目の徹底が必要だ、という。

「しかも、日本にはセクハラを明確に禁止する法律がありません。法律にハラスメントの禁止を明記することで、職場だけでなく大学など教育現場でのセクハラ予防にもつながります」(内藤さん)

 そうした中、日本学術会議では「包括的反差別法」の立法提言に向け動き始めた。労働分野だけでなく、教育など社会の他の様々な分野の差別やハラスメントを禁止し救済する法律で、1年以内に提言を出す予定だ。同会議の連携会員でもある内藤さんは言う。

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