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 仲良し夫婦なのに性生活がない――。 一部で「セックス離れ」が進んでいる。男性に「膣内射精障害」があるいっぽうで、女性にも「性機能障害」があるという。セックスレスは課題なのか、現代社会の必然なのか。

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心理的な恐怖感がハードル

 性交渉が完遂できない「性機能障害」は、女性にも存在する。代表的なものが、挿入ができない「挿入障害」だ。性器を含めたスキンシップは問題なくできるのに、膣に触れられそうになると突然体をこわばらせてしまうような状態を指す。挿入障害は、身体的な問題があるわけではなく、心理的な恐怖感などがハードルになるケースが多い。

 女性向けの性機能外来でも、男性不妊外来と同様、「妊娠を希望しているけれど、性交渉ができない」という悩みを抱えて訪れる人が増加傾向にある。

元日本性科学会理事長で、性機能障害に悩むカップルが数多く訪れる性外来で、30年にわたってカウンセリングを行う婦人科の大川玲子医師は言う。

「“子どもを自然に授かりたい”という思いから、性交渉を望む人が多いものの、日本ではセックスに関するカウンセリングを行っている施設(医師・臨床心理士など)はかなり限られます。晩婚化が進むなか、性交渉ができるようになるまで時間をかけていられないという判断から、不妊治療を選ばれる方も少なくありません。不妊症は“性交しているが妊娠しない場合”を指しますが、不妊治療には性交を経ない治療法があるため、性機能障害の人も選択するということになります」

性的な話題をタブー視

 挿入障害がある患者に共通する不安が、「処女膜は最初の性交渉で破れ、血が出る」という“処女膜神話”への過度なとらわれだという。これが「性交渉=出血するほどの痛みを伴う」という思い込みを生み、女性に強い恐怖感を抱かせていることが多い。結果、性交渉しようとすると、骨盤底筋、特に膣周囲の筋肉が、本人の意思とは無関係に収縮し、膣を閉じてしまう。また、幼小児期から性的な話題をタブー視し、性=悪いことというイメージを強く持つ人が患者に多い傾向もあるという。

 治療の柱の一つは、不安や緊張、恐怖によって抑制された性反応を取り戻す心理的なアプローチだ。まず、性交渉の際の体の反応や、不安や恐怖が挿入を妨げる仕組みについて、治療者から説明を受ける。加えて、個々の症状に合わせて苦手な行為を少しずつ練習し、抵抗感を減らす行動療法を行う流れが一般的だ。挿入障害の場合には、挿入への過度な恐怖を取り除くため、挿入の練習を段階的に行い、徐々に慣らしていく。

治療に1年以上かかることが多い

「性外来を訪れる方は、“したいのにできない”という悩みを抱えている人が多いですが、特効薬はなく、時間を要します。私の外来を訪れる挿入障害の患者さんは、治療に1年以上かかることが多い。長い期間苦手なことに向かい合うのはストレスでもあり、妊活中のカップルは、手っ取り早く不妊治療に進むケースが少なくありません。セックスと妊娠は別のもの、という認識が根付いてきたように感じます」(大川医師)

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