
日本人の塩分摂取量は多い
いっぽうで、日本人の塩分摂取量はそもそも多いという問題がある。
WHO(世界保健機関)は塩分摂取量の目標を成人で1日5グラム未満と掲げている。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では男性7・5グラム未満、女性6・5グラム未満を目標にしている。目標値と比較しても、日本人の塩分摂取量はかなり多い。
「1980年の日本人平均は12・9グラムで、当時よりは3グラム減っています。とはいえ、日本を含む東アジアの国は塩分摂取量が多い傾向にあります」(宮本さん)
そんな我々日本人は、塩分をどう理解し、どう向き合っていけばいいのか。
宮本さんによると、80年代に行われた「インターソルト・スタディ」という注目すべき研究がある。世界の52カ所で、同じ条件のもと、食塩摂取量と血圧の関係を調べたものだ。
その結果、人種や民族に関係なく、塩分摂取量が多いと一年ごとに血圧が上がっていくことが判明した。
「日本人男性の平均である一日約11グラムの塩分を摂取すると、一年ごとに血圧が約0・6mmHg上がっていきます。たった0・6と思いがちですが、例えば40歳で上が130、下が80の男性は、20年後には高血圧(上140以上、下90以上 WHO基準)になってしまうのです」(宮本さん)
道理で高齢者に高血圧が目立つわけだ。ブラジルのアマゾン川流域に住む塩分をとらない「ヤノマモインディアン」には、高齢でも高血圧の人は一人もいなかったという。
国を挙げて減塩に成功したイギリス
日本人と同様にかつては塩分摂取量が多かったが、国をあげた「減塩作戦」で成果を出したのがイギリスだ。
イギリス人は塩分摂取量が多く、主な摂取元は主食のパンだった。これに目をつけた国が2003年、消費者に気付かれないように少しずつパンの塩分を減らすよう各メーカーに働きかけ、減塩を実現した。
すると11年には国民の一日平均摂取量が1・4グラム減り、血圧も平均3mmHg低下。心筋梗塞と脳梗塞による死亡者も4割減少したという。
「論文の考察には、死亡者の減少理由には医療の進歩もあると書かれていて、減塩の効果は4割減のうちの2割だろうとされていました。ただ、それでも十分に意味はあったと考えています」(宮本さん)