岡本真夜さん(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 1995年のデビュー曲「TOMORROW」が大ヒットし、透明感のある歌声で今も多くのファンを魅了している岡本真夜さん(51)は、今年でデビュー30周年を迎えます。浮き沈みの激しい音楽シーンで30年間活動を続けてきた裏には、一躍「時の人」となった岡本さんだからこその苦難や葛藤もありました。ロングインタビューの【前編】では、「TOMORROW」でデビューすることになったきっかけ、大ヒットしたがゆえの劇的な環境変化と戸惑い、それを乗り越えたときの気持ちなどをうかがいました。

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 1995年5月。岡本さんのデビュー曲「TOMORROW」は177万枚以上のセールスを記録する大ヒットとなった。「岡本真夜」の名前は一躍日本中の人々が知るところとなったが、だれもその“顔”は知らなかった。デビュー当初の岡本さんはMVでおぼろげには映っていたものの、顔出しは一切せず、テレビの音楽番組への出演もしなかったからだ。

 今でこそAdoやtuki.など顔出しをせずに活動している人気歌手は多くいるが、当時の岡本さんはどのような思いを持っていたのだろうか。

「戦略だったんでしょ、と言われることもあるんですが、本当にそうではないんです。私はもちろん音楽はやりたいんですけど、自分が外に出るのは大の苦手でした。作った楽曲だけリリースして、それが認められたらうれしいな、という思いだけでした。だから最初は『メディアに一切出ない』という約束でデビューしたんです」

 顔を出していないため、自分の曲がテレビやラジオ、街角から聞こえてくるたびに「自分なんだけど、自分じゃないような不思議な感覚でした」と振り返る。

「自分から出たものが独り歩きしている感じでした。大ヒットしても、私の顔は出ていないから外も普通に歩けるし……。むしろ、学生時代からの延長でバイトを探したりもしていたぐらいです(笑)。でも結局は曲がどんどん広まったことによって、スタッフやレコード会社、テレビ局の人からも『出てくれないか』と言われて……。私は本当はひっそりと暮らしたかったんですけど、当時はまだ若かったこともあり、大人たちのいろんな思惑もあって『出ざるを得なくなった』という感じでした。初めて顔を出して出演したのがNHK紅白歌合戦で、すごく緊張したことを覚えていますね。年が明けてスーパーに行ったときに、初めて人に指をさされたので、『テレビって怖い』と思って逃げました」

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