編集:そこが数学というものの面白いところなのかなと思っていて。人間中心的じゃないというか、すごく自然に対する敬意に溢れているなと思うんですね。だからこそ自然科学という分野名があると思うんですが。そこはすごく面白いなと思いました。
一方でちょっと疑問に思ったのが、もしかしたら変な質問かもしれないですけど、eとかπとかって、小数が無限に続いているじゃないですか。人類はその無限を全て知り尽くしてるわけじゃないわけですよね。それって、発見したと言えるのかどうか。そこってどう思われますか?
鈴木さん:ちょっと今の質問にはうまく答えられる自信がないんですけれども(笑)。質問されて答えずに質問しちゃうのも申し訳ないんですが、第一回本屋大賞の受賞作品はなんでしょう?
編集:『夜のピクニック』。
鈴木さん:えっ!

編集:あれ?
鈴木さん:第一回本屋大賞受賞作品。大ベストセラー。小川洋子さんの……
編集:あ……『博士の愛した数式』ですね。

鈴木さん:『博士の愛した数式』の中にある、博士が家政婦さんからの質問に答えたものを、ちょっとパクっているといえばパクっている面もあるんですけども(笑)。家政婦さんが博士に「そういったことを発見するんですね」と聞いたら、博士が「そう、発明じゃなく発見だ。我々数学者は神様のメモ帳をこっそり覗き見しているだけだ」みたいなことを言っていたんです。
神様の書いたメモ帳っていうのはどこにあるかもわからないし、開かれているかもわからない。それを探し出すのが我々人類、数学者の役目だと言ってたんです。まだ分からないことだらけなので、いまだに数学は。未解決問題がたくさんあるのをご存じだと思うんですけども。
そういった意味では、神の領域に近づいていく一歩一歩が数学の発展なんじゃないかなと思います。質問には全然答えていなくてすみません(笑)。
原点が詰まった一冊
編集:鈴木さんはこちらの本が4冊目のご著書になるんですが、今お話を聞いて人生体験の初期衝動というか、原点が詰まった本なのかなというふうに、改めて思いました。