行動訓練で、助教としてレンジャー候補生を指導する前田さん(写真中央)

荷物が重すぎて、富士山で気を失った前田さん

 2021年9月、レンジャー候補生の30代男性隊員が訓練中に重度の熱中症にかかり、死亡した。その後24年8月にも、20代男性の候補生が体調不良を訴え、命を落とした。

 今回、レンジャー養成訓練を一時中止して内容を見直す決定がされたことについて、前田さんは妥当な判断だと受け止める。レンジャーの数を増やしたい陸自上層部からは「候補生の○割は卒業させてレンジャー隊員にしてほしい」との意向が示される一方で、助教をはじめ現場の指導官たちは「どの部隊よりも強靭な隊員を育成したい」と“愛の鞭”をエスカレートさせる。その結果、厳しすぎる訓練でもリタイアが許されず、候補生たちが命の危険にさらされる場面を幾度も見てきたからだ。

「訓練を続けるか否かは本人の意向が尊重されるべきだし、教範で飲んでいい水の量や背負う荷物の重さなどは定められているのに、守られていない。私は行動訓練で富士山を登った時、あまりに荷物が重くてうまく呼吸ができず、意識を失いました。本来は重量50キロと決まっているのに、実際に量ると60キロ以上あったんです」

 行動訓練の前に体をつくる「基礎訓練」にも、改善すべき問題はあるようだ。

 前田さんの現役時代、小銃を胸の前に抱えて走る「ハイポート」中に気絶してドクターヘリで搬送された候補生がいた。トレーニング内容の過酷さだけでなく、極度の睡眠不足に陥っていたことも原因だったのではないかと、前田さんはみる。

「基礎訓練中は、訓練後の負担も非常に大きい。消灯時間の23時までに食事、入浴、宿舎の掃除、武器の手入れなどを済ませなければいけないのに、掃除は少しでもミスがあるとやり直しを命じられる。だから『終わらない清掃点検』と呼ばれていたし、とにかく時間をつぶされる。消灯後に布団をかぶってライトで手元を照らしながら、明け方4時ごろまで座学の課題に取り組み、6時に起きて訓練へと向かう生活が続きました」

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